新型コロナウイルス感染症の影響で、オンライン授業やリモートワークへの切り替えを余儀なくされ、人々はデジタル空間で過ごすことが多くなりました。そして、さまざまな生活行動がデジタル空間に移っています。代表例がショッピング。生活必需品から高額商品まで、ネットで購入するケースが急増しています。オンライン購入のトレンドは以前からもちろんありましたが、コロナ禍でそれが一気に加速したといった印象です。
でも落ち着いて考えてみてください。「コレが欲しい!」と皆さんが思うものは、コロナ前と今でどれくらい変わりましたか。私たちは人間活動をするために衣食住は必要ですし、みんなで集まっておしゃべりをする場所も欲しいですし、ときには自分へのご褒美にちょっと高いコスメやスイーツも買いたいですよね。コロナ前はこういったことがリアルの空間で行われていただけで、コロナ禍ではデジタル空間に移っただけと考えられないでしょうか。つまり、人の根源的なニーズは100〜200年ぐらいでは変わりませんので、皆さんが求めるモノやコトをその時代に合ったスタイルで提供することがマーケターにとっては大切なことです。
塾や予備校で座るいつもの席に、誰か別の人が座っていると「あの場所は、私専用なのに!」って思うことはありませんか? これは日ごろあなたがその席に座ることで、触覚情報を通じて心の中に所有意識を覚えてしまう「心理的所有感(サイコロジカル・オーナーシップ)」という現象です。コロナ前はリアルの店舗で商品を手に取ることで所有意識が芽生え購買を後押ししてくれましたが、商品を触ることができないオンライン購入だと難しくなります。そこでオンライン購入でもどのようにして心理的所有感を消費者に感じてもらうことができるのかを研究することで、私はコロナ禍のマーケターに新しい知見を届けようとしています。最近の研究成果では、商品画像の中に手の動作を入れ込むことや、PCよりも指で操作するスマホやタブレット端末でオンライン購入してもらったほうが、購買に前向きになれることがわかってきました。購入前に商品を確かめたいという消費者のニーズはいつも変わらないので、それをコロナ禍の購買スタイルに合わせてあげることができる知見です。
マーケティングといえば、商品開発や広告といった時代のトレンドをデザインしていく印象が強いので場当たり的なイメージがあるかもしれませんが、いつの時代も変わらない「勝ちパターン」があります。それをしっかりとアカデミックな視点で学べることが、大学でマーケティングを学ぶ価値だと思ってください。消費者を理解するためにはどんな視点を持たないといけないのか、どんな状況のときに、どんなマーケティング活動を設計すれば消費者を幸せにすることができるのか、勝ちパターンの引き出しを大学時代にたくさん身につけることができれば、それだけ社会から必要とされる稀有(けう)なマーケターになることができるでしょう。マーケターをめざす高校生の皆さんにアドバイスを送るとすれば、ふだんから人間観察を楽しむことです。自分と価値観が異なる人がいれば、視野と発想を広げるチャンス! どうしてそう考え、そんな行動をするのかを考察してみましょう。
関西学院大学商学部早期卒業、同大学大学院商学研究科修士課程修了、慶應義塾大学大学院経営管理研究科出身(博士:経営学)。研究分野・キーワードは、マーケティング戦略、マーケティング・サイエンス、消費者行動分析。
研究テーマは「マーケティング思考の実践による市場創造:価値創造のための消費者行動分析と戦略プランニング」。マーケティング学習と実践を重ね、将来はマーケターになることを志望する仲間が集う。マーケティングプランコンテストやビジネスデータ分析コンペに毎年参加。大手マーケティング・カンパニーといくつもの産学協同プロジェクトを推進し、キャンパス内外を舞台に活動する。