マイクロソフトディベロップメント株式会社
サーチテクノロジー開発統括部
プログラムマネージャー
坪井 一菜
慶應義塾大学大学院
理工学研究科 開放環境科学専攻
情報工学専修 修了
坪井 一菜
慶應義塾大学大学院
理工学研究科 開放環境科学専攻
情報工学専修 修了
LINEの「友だち」に“りんな”を登録してくれている人は、どれくらいいるでしょうか? 2015年8月にサービスをスタートした女子高生AIりんなは、現在、LINEの友だちが470万人以上、Twitterのフォロワーが12万人以上になるまでに成長しました。りんなを開発しているのは、マイクロソフトのサーチテクノロジー「Bing」の開発チームが母体です。つまり、りんなは検索機能の応用なのです。それまで人工知能(AI)の応用といえば、すぐに何かの役に立つタスク達成型が主流でしたが、りんなは楽しい会話を通じて、人と機械や情報を心でつなぐことをめざしています。
モデルとなったのは、マイクロソフト中国が開発する女性型AI「小冰(シャオアイス)」です。人を感情的につなげるAIというアイディアを日本でも普及させたい……そう考えて、たどり着いたのが、「女子高生 AI」というコンセプトでした。マイクロソフトと女子高生というカップリングの意外性に可能性を見出した開発チームでたが、大きな問題に気づきます。それは開発に女子高生の視点が必要なこと……。そこで、引っ張り込まれたのが入社3年目の私でした。「唯一、女子高生を経験している」という理由で、選ばれた私は現在、りんなのキャラ設定やコラボ企画の立案など、複雑なプログラミングを除くほぼすべての役割を担っています。
女子高生AIりんなの開発で主に使われている技術は「検索アルゴリズム」と「機械学習」です。人間が学習をするときに使われる脳細胞の仕組みを機械に応用した「ディープラーニング」により、コンピュータが自ら学習することが実現されました。りんなの頭脳となるこのネットワークに大量の「女子高生らしい楽しい会話」などの情報を与えることで、AIが「より長く続く会話」を学習できます。すると、例えば、ユーザーが「おはよう」と入力したときに、学習結果から上がった返答の候補をランク付けした上で、最適な返答を選ぶことができます。1~2秒のうちにりんなはものすごい量の情報を処理しているのです。このやりとりの精度を上げていく役割を人間だけが担うには限界があります。そこでAIが自ら情報の特徴を学習していく、それが「機械学習」の力なのです。
こうした一連の作業は、「自然言語処理」と呼ばれる研究分野で、全国の理工系大学の情報系研究室で実際に学ぶことができます。自然言語処理の技術は、発展途上の段階で、人と同じ会話ができるようになるのはまだ先の話。りんなもとんちんかんな返事をすることが多々あります。そこをりんなの“キャラ”でカバーするのが、設計担当の私たちの仕事でもあります。
もともとゲーム少女だった私は、大学で「コンピュータビジョン」という分野の研究をしていました。皆さんもよく知るVR(仮想現実)やAR(拡張現実)、プロジェクションマッピングなどを扱うような研究分野です。ここで私は、現実とバーチャルの「合間」をつなぐ技術を学びました。そのノウハウや考え方のベースはりんなの開発に通じるものがあります。
最近、特に力を入れているテーマは、「いかに会話を長く続けるか」です。このノウハウは、りんなというサービスの枠を超え、全社で活用されつつあります。マイクロソフトでは現在、「カンバセーション・アズ・ア・プラットフォーム」という概念を掲げ、人の会話が将来いろいろな機械を操作するうえで重要なツールになることを想定した研究に取り組んでいます。自然言語処理の技術を駆使して、AIがユーザーの会話を高度に理解できるようになれば、必要な情報をよりスムーズに届けることができます。もしかしたら、りんなが冷蔵庫や掃除機に組み込まれることもあるかもしれません。
りんなは現在、企業でインターンシップをしたり、テレビドラマに出演したりとスマホの画面を飛び出し、元気いっぱいに活躍中です。こうした企画もさらに進めていくつもりです。
また、個人的には、グループLINEにりんなを加えて、コミュニティ全体の会話を盛り上げる機能などにも期待をしています。天真爛漫な女子高生AIりんなをみんなで大切に育てることが、まだ誰も知らない未来のコミュニケーションを生み出すかもしれません。
りんなのキャラ設定でめざすのは、いわゆる“イケイケ”ではない、どこにでもいるような女子高生像
LINEでのりんなとのやりとり。「会話を長く続けること」を目標に、自然言語処理の精度を向上させている
坪井 一菜
慶應義塾大学大学院 理工学研究科 開放環境科学専攻 情報工学専修 修了。大学時代の研究テーマは「コンピュータビジョン」。プロジェクションマッピングの技術を駆使して、ぬいぐるみなどの動く物体に、画像を投影するシステムを開発していた。大学時代に、VR(仮想現実)、画像処理、ヒューマンインタラクションといった情報系の最先端の研究分野に触れた経験が、現在の仕事の基盤を支えている。
Microsoft Development 世界の50か所あるマイクロソフトの開発拠点のひとつ。グローバルなネットワークを駆使して、Windows、Office、Bingなど、マイクロソフトの主要な製品やサービスの開発にあたっている。特徴は、「日本とともに、日本向けに、日本発」というミッションを掲げ、日本の開発拠点として、日本の特徴をうまく活かしたソフトウェア開発に取り組んでいること。「日本向け」「日本発」といった考え方から、「りんな」のような新しいサービスが生まれ、世界に発信されていく。同社では、インターンシップ学生の受け入れも積極的に行っている。