理化学研究所
染谷薄膜素子研究室/
創発ソフトシステム研究チーム
福田 憲二郎
工学博士
洗濯可能な超薄型太陽電池が
テキスタイルの未来を変える!?
理化学研究所
染谷薄膜素子研究室/
創発ソフトシステム研究チーム
洗濯可能な超薄型太陽電池が
テキスタイルの未来を変える!?
ウェアラブルなセンサーが生体情報を管理する未来......。
それが実現されたとき、電源の問題はどうなるのか?
研究者がたどり着いたのは、布のように纏える太陽電池だった。
その研究者が見せてくれた真っ白なYシャツの肩の部分には、不思議な模様のシール状の“何か”がプリントされていた。デザインなのか?識別用のラベルなのか?聞くと衣服に貼りつけられる超薄型有機太陽電池だという。Yシャツに太陽電池??研究者たちは、どのような未来像を描いているのだろうか。
「身につけられる状態で生体情報の継続的なモニタリングができるウェアラブルセンサーの研究に注目が集まっています。例えば、血圧、体温、心拍数などを常に把握できれば、風邪はもちろん、脳梗塞や心筋梗塞の早期発見につながるかもしれません。現在、腕時計型や肌に直接貼りつけるタイプなど、さまざまなウェアラブルセンサーの開発が進んでいますが、見逃せないのは電源の問題です。そこで、私たちの研究チームでは、衣服に貼りつけ可能な環境エネルギー電源として、超薄型で柔軟性を持つ有機太陽電池の開発に挑んだのです」
そう語るのは、理化学研究所染谷薄膜素子研究室/創発ソフトシステム研究チームの福田憲二郎研究員。もともとは、所属する研究室で、リーダーの染谷隆夫主任研究員らと有機半導体材料の開発に取り組んできた。薄くて、軽くて、柔らかいという特長を持つ、この有機材料を使って、何かもっと面白いことができないだろうか......。そう考えて、たどり着いたのが、超薄型太陽電池だった。
「今回、東京大学との共同研究で、厚さ3マイクロメートルの有機太陽電池の作製に成功しました。1000分の3ミリという圧倒的な薄さは、私たちの研究チームが積み上げてきた薄膜素子の研究の成果でもあります。厚さ1マイクロメートルの基板フィルムを利用していて、曲げたりつぶしたりしても動作するのが最大の特長。さらに、ゴム製の封止膜でサンドイッチすることで、伸縮性を 保ちながら、耐水性を持たせることも実現しました。これによって、衣服に貼りつけたまま洗濯することもできます。また、太陽光のエネルギー変換効率7.9%という成果も衣服の上で動作するという条件を考えれば、画期的な数字だと思っています」
開発成功の決め手となったのは、2012年に理化学研究所の別の研究グループが開発した有機半導体ポリマー「PNTz4T」を用いて、環境安定性に優れた独自構造の有機太陽電池を超薄型基板上で作製できたこと。いずれ、Yシャツの背中一面くらいの大きな範囲に貼りつけて発電可能になれば、センサーを動作するレベルの電力は十分に供給できるという。
「衣服に使う布に圧力センサーや温度センサーを組み込んで、情報収集や遠隔管理などの新しい機能を持たせるスマートテキスタイル、もしくは、e-テキスタ イルと呼ばれるアイデアはすでにあって、さまざまな研究開発が進んでいます。エレクトロニクスを駆使した革新的な衣服をこの技術が支えられたらいいですね」
もちろん、超薄型有機太陽電池の応用先は、衣服だけではない。今後、来ると予想されるすべてのものがインターネットにつながるIoT(Internet of Things)の世界では、街中に設置されたセンサーを動作させるインフラにもなりうるだろう。
「私たちは、もともと集積回路やセンサーに用いる薄膜素子の研究を専門とするチームです、超薄型太陽電池は決してゴールではありません。有機半導体材料を用いて、人々のライフスタイルを変えてしまうような、新しいデバイスをこれからもつくり続けたいですね」
福田 憲二郎(工学博士)
国立研究開発法人理化学研究所
染谷薄膜素子研究室/創発ソフトシステム研究チーム 研究員
2006年、東京大学工学部物理工学科卒業。2008年、東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻修士課程修了。2011年、同博士課程修了。山形大学大学院理工学研究科電気電子工学分野助教、学技術振興機構(JST)戦略的創造 研究推進事業さきがけ研究者を経て、現職。2015年より理化学研究所創発物性科学研究センター超分子機能化学部門創発ソフトシステム研究チーム研究員を兼務。
[問い合わせ]
国立研究開発法人 理化学研究所 創発物性科学研究センター
TEL:048-462-1111(代表)
Yシャツに貼りつけられた超薄型有機太陽電池。伸縮性、柔軟性のほか、耐水性があるのが特長
超薄型有機太陽電池の薄さは1000分の3ミリ。布と同化してひらひらと風に舞いながら、しっかりと発電をしてくれる
福田研究員が日々、研究を行う理化学研究所の実験室。薄膜を作製する最新の実験機器などがそろう
超薄型有機太陽電池の基板部分。ゴム素材でコーティングすることで、耐水性を実現している