Special Interview

東京理科大学
理工学部 電気電子情報工学科

木村 真一
教授

小型衛星に搭載された高性能な「目」が宇宙のゴミ掃除と衛星の自撮りを可能に

これまで空の向こう側へ飛び出していった数多の人工衛星。
宇宙では今、任務を果たした人工衛星が「宇宙のゴミ」と化し、深刻な問題となっている。
その宇宙ゴミをクリーンにする役目は、「目」と「脳」を搭載したロボットに託された─。

 人類のフロンティアである宇宙の探索。1957年の旧ソ連による人工衛星・スプートニクの打ち上げ成功以来、世界各国が人工衛星の打ち上げを行い、その回数は4500回を超えた。しかしその結果現在、地球の周りには任務を果たした人工衛星や打ち上げ時に発生した破片などが多く飛び交い、「スペースデブリ(宇宙ゴミ)」として大きな国際問題になっているという。

「スペースデブリは“ゴミ”と呼べるほどかわいいものではありません。巨大な金属の破片が弾丸の10倍もの速さで地球を周回しているのですから、活動中の衛星と接触して爆発を起こす可能性もあります。国際宇宙ステーションも、スペースデブリが原因で頻繁に回避行動を取らなければならない段階にまで来ており、状況は深刻さを増しています」

 そう語るのは、東京理科大学電気電子情報工学科の木村真一教授だ。これまでスペースデブリの回収に向けた研究に取り組んできた。同大学は、2017年に「スペース・コロニー研究センター」という宇宙関連の研究開発拠点を開設し、理工系総合大学が培ってきた地上においての有用な技術を宇宙での長期滞在実現へと応用することを目指している。これは文部科学省「私立大学研究ブランディング事業」に採択された注目の事業で、木村教授はここの副センター長を務める。

「スペースデブリ回収を実現するために必要なのは、何を置いても安全確実にスペースデブリへと近づくこと。しかし、地球からゴミを観測すると数キロもの誤差が生じてしまい、正確な位置をつかむことは難しかったのです。そこで私たちが構想したのは、ゴミを見つける「目(カメラ)」、捕まえる「手(ロボット)」、これら一連の作業を制御する「脳(計算機)」の開発でした。要するに、ロボットを搭載した衛星が自律的にゴミを発見し、近づき、回収するということです。宇宙で使われるカメラや計算機は、大きくて性能も低い上に高価というゴミ回収には不向きなものだったので、デジカメや携帯に使われている最新鋭かつ安価な半導体部品を利用して、小さくて性能の高いカメラや計算機を開発する方法を編み出していきました」

 現在は、木村教授が技術提供しているASTROSCALE社とともに、スペースデブリ除去の実現に向けた技術実証衛星の打ち上げを予定しているという。まるでお掃除ロボットのような衛星が、広大な宇宙を舞台に活躍する未来が近づいている。

 さらにこの宇宙を見守る衛星の「目」の技術は、小惑星探査機「はやぶさ2」に搭載されている「CAM-H(小型モニタカメラ)」にも応用されている。

「CAM-Hははやぶさ2搭載の監視カメラシステムで、小惑星表面のサンプルを採取する『サンプラホーン』の状態を監視し、タッチダウンの様子をモニターします。この研究には木村研究室の学生も参加しています。自分の作ったものが衛星に搭載され、実際に宇宙で活用されることに喜びを感じているようです」

 このCAM-H以外にも、小さく高精度な目の技術はさまざまな人工衛星に搭載され、その行く手を見守ってきた。人類が月や火星へ旅行する未来もそう遠くはない。木村教授の研究成果によって、安全で快適な宇宙旅行の実現は確実に近づいている。

PICK UP!

「宇宙教育プログラム」と「宇宙理工学コース」
東京理科大学の宇宙関連事業に注目!

理工学研究科は2017年度から専攻を超えた6つの「横断型コース」を開設。「宇宙理工学コース」では、木村教授の研究をはじめとして、例えば、物理学専攻では宇宙に関する基礎的な天体物理学の理論的な研究が行われているなど、学生は「宇宙」について、専攻の枠を横断して広い視野で学ぶことができる。

さらに注目したいのは、2015年度から向井千秋特任副学長を代表として開始した「宇宙教育プログラム」。受講生(大学生・高校生)が主体的にパラボリックフライト実験(微小重力実験)を計画、実践するなど、宇宙科学技術について「本物の知識」と「本物の体験」を学ぶことができる。講義、講演の一部は一般の聴講者も募集している。開講スケジュールなどの詳細は特設Webサイトで公開中!

木村真一

東京理科大学
理工学部電気電子情報工学科 教授
スペース・コロニー研究センター 副センター長

1988年東京大学薬学部製薬化学科卒業。1993年同大学院薬学系研究科製薬化学専攻博士課程修了。博士(薬学)。独立行政法人情報通信研究機構(旧郵政省通信総合研究所)主任研究員、東京理科大学理工学部電気電子情報工学科准教授を経て、2012年から現職。研究分野は、自律制御、宇宙システム、ロボティクス。

小型モニタカメラ(CAM-H)©JAXA

2018年10月25日に小惑星探査機「はやぶさ2」が、小惑星「リュウグウ」の表面に近づいたときに撮影した画像。当画像は、JAXAの「はやぶさ2プロジェクト」公式サイトで確認できる ©JAXA