Future Laboratory

The future of Metaverse

クラスター株式会社代表取締役CEO

加藤直人さん

トップランナーに聞く!
メタバースの未来

メタバースで何が変わる!?

何かと話題の「メタバース」。バーチャル空間で生活できるようになるとモノづくりやコミュニケーションはどう変わる?

メタバースの実現、
すなわち「世界をつくる」試みは、
世界を理解する試みなのかもしれない。

世界30億人のゲーマーが
バーチャル空間でつながる

「メタバースという言葉自体に明確な定義があるわけではないんですよ……」

 そう語るのは、国内最大級のメタバースプラットフォーム「Cluster(クラスター)」を運営するクラスター株式会社の代表取締役CEO加藤直人さんだ。クラスターが提供するメタバースプラットフォームでは、バーチャル空間でのイベントやライブなどが常時開催されている。場所はインターネット空間なので、全国どこからでも参加可能。PCやスマホからもメタバースにアクセスできるので知っている人も多いだろう。

 改めて、メタバースとは何か? 昔からSF映画で描かれてきた人類の夢の世界、ゲームの中に自分の生活圏が移っていくこと……、さらに最近はメタバース上でショッピングをすることも可能で、暗号資産(仮想通貨)など時代のキーワードと一緒に語られることもある。加藤さんによれば、こうしたさまざまな切り口が混在しているカオスな状況が今のメタバースなのだという。

「コンピュータが描く3DCGで構成された世界の中で生活し、そこに住む人々とコミュニケーションし、デジタルな価値を売買する世界観がメタバース的だと捉えています。それを実現しようとして、メタ(元フェイスブック)のような大企業が、人やモノ、巨大な市場を動かしているのが現在のメタバースを取り巻く状況だと思っています」

 メタバースという言葉は、1992年にアメリカのSF作家ニール・スティーブンスンが『スノウ・クラッシュ』という小説で使用したのが始まりとされている。その後、2007年に最初のブームがやってくる。『セカンドライフ』というオンラインゲームが流行ったときだ。しかし、当時はインターネットのインフラが十分に整っておらず、ゲームを楽しむ上で通信速度に課題が残った。その後、通信規格は3Gから5Gになり、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)の技術も当たり前に浸透していく。そして、2021年にフェイスブック(当時)のCEOマーク・ザッカーバーグが「メタバースの会社になる」と宣言し、一気にメタバースがバズワードとして脚光を集める。

「VRも最初のブームは90年代にありました。当時、専用機器を買おうとすると数百万円かかった。その時代と比べると今は、VR用ヘッドマウントディスプレイも数万円で買えます。インターネットのユーザーもここ20年で一気に増えました。それに合わせて、ゲームも爆発的に普及し、今や全世界人口約80億人のうち、約30億人がゲームユーザーだそうです。この人たちがインターネットとスマホを使って、バーチャル空間でつながるのが、メタバースの時代なのです」

メタバースのデータが
現実世界のモデルになる!?

 企業も注目するメタバースだが、まだまだ「ゲーム」と思っている人も多い。メタバースは次世代のビッグビジネスになっていくのか――。加藤さんの答えは「イエス」だ。

 それを証明するように、マイクロソフトはビジネス向けメタバースプラットフォーム「Mesh」をスタートし、これをビジネス戦略の主軸にすると発表している。さらに高校生もよく知る「フォートナイト」や「マインクラフト」といったメタバースの文脈で語られるオンラインゲームも絶好調だ。

「メタバースでは、今まで取得できなかったデータが取れるようになります。メタバースには身体性があり、空間があり、それらがすべてデジタルで構成されています。はじめて人間が全世界をキャプチャーして保存できるようになるのです。人と人との距離感や感情、言葉などを保存していくことで、今までできなかったデータ解析も可能になります。するとメタバース上のデータが現実世界にしみ出していく。つまり、メタバースの世界をモデルとして、現実のプロダクトや都市がデザインされるようになるかもしれません」

 メタバースには、それだけではない魅力もある。メタバースの世界では、どんなものだってつくれるし、どんな生活もできる、さらに誰にだってなれる。すると次に必要になるのは「妄想力」だ。現実世界では絶対に起こり得ないような突拍子もない妄想が重要になってくる。もちろん、3DCGやプログラミング言語を扱う知識や技術も不可欠だろう。ただ、近い将来、これらのスキルもゲーム感覚で身につけられるようになるという。

 では、来たるメタバースの時代に向け、高校生は大学で何を学べばいいだろうか。

「とにかく自分が興味あるものを幅広く学べばいいと思います。授業を通じて、世界の仕組みを理解することが重要です。それは、ルールをつくる側に回るチャンスを広げてくれます。今後の世界では、社会のルールを守るだけでは三流、ルールをハックする(破る)のでも二流、ルールをつくる人こそが一流です。そのためには、ここまで述べた妄想力やデータから意味を見出す力も求められます。メタバースの実現、すなわち『世界をつくる』試みとは、世界を理解することなのかもしれません。ルールを知り、ルールをつくるという思考を学生時代に獲得できれば、将来どんな業界でも活躍できると思いますよ」

メタバースプラットフォーム「cluster」とは?
イベントやライブも開催できるバーチャル空間を提供

スマートフォンやPC、VR機器などさまざまな環境からバーチャル空間に集ってイベントに参加したり、友達とコンテンツを楽しめたりするプラットフォームのこと。企業やアーティストとコラボして、イベントやライブをメタバース上で開催している。渋谷区公認配信プラットフォーム「バーチャル渋谷」などが有名。詳しくは、クラスター株式会社のWebサイトをチェック!

加藤直人さん
クラスター株式会社 代表取締役CEO

1988年、大阪府生まれ。京都大学理学部で宇宙論と量子物性論を研究。京都大学大学院理学研究科修士課程中退後、2015年にクラスターを起業。2017年にVRプラットフォーム「cluster」を公開。経済誌『Forbes JAPAN』の「世界を変える30歳未満30人の日本人」に選出されている。

CHECK!

『メタバース
さよならアトムの時代』

(加藤直人著/集英社刊)