Professor

和田 豊

千葉工業大学

工学部 機械電子創成工学科 准教授
ハイブリッドロケット開発

低コストの次世代ロケットで
宇宙に手が届く社会を創造する

プラスチックが燃料の
ハイブリッドロケット

 「ハイブリッドロケット」を知っているだろうか? 現在、世界中で開発されているロケットは、大きく分けて2種類。火薬を燃料とする「固体燃料ロケット」と液体水素などを燃料とする「液体燃料ロケット」だ。この2つのロケットの推進系の構造を融合したのがハイブリッドロケットである。
 「プラスチックのような固体燃料を液体の酸化剤と反応させて燃やす構造のエンジンを搭載しているのがハイブリッドロケット。爆発事故などの危険性が少ないうえ、構造がシンプルなため低コストな点が特長です。欧米では、有人宇宙飛行の実現をめざす民間宇宙船にもこのシステムが採用されています」
 そう語るのは、千葉工業大学工学部機械電子創成工学科の和田豊准教授。小学生の頃から宇宙やロケットに興味があった彼は、高校卒業後、大学の工学部航空宇宙学科に進学。そこで、学生チームでロケットを自作し、飛ばすことに挑む「学生ロケットプロジェクト」に参加する。

空気だけを使って、
プラスチックを燃やせ!

 「入学してすぐプロジェクトの担当教員に出された課題が『酸化剤に空気を使って、プラスチックに火を点けろ』というものでした。空気中の酸素は2割程度。そのまま点火しても燃焼は維持できません。温度や圧力といった条件を変えながらさんざん実験をしました」
 その課題で重視されたのは結果よりもむしろ過程。自分で実験方法を考え、試行錯誤を繰り返す技術者の基本姿勢を学んだという。そして、「プラスチックを燃やす」というキーワードは、現在のハイブリッドロケットの研究につながっていく。
 和田准教授が担当する宇宙輸送工学研究室では、ハイブリッドロケットエンジンの開発に加え、新たな燃料の開発や低コストの次世代型ロケットの実用化提案なども行っている。
 「ハイブリッドロケットの燃料開発にも力を入れています。燃料となるプラスチックは瞬時に爆発的な推力を出すのが苦手。そこで、課題となる強度や弾性などを改良した樹脂を開発し、従来のプラスチックより約3倍のスピードで燃焼させる実験に成功しました」

一般的なハイブリッドロケットエンジンの構造図。プラスチックの固体燃料に酸化剤を反応させて燃焼させる。

めざすは教育・研究分野で利用できる
次世代型小型観測ロケットの開発

「 ぷっちょ」ロケットで
高度約300mまで到達

 研究室では、他にもJAXA(宇宙航空研究開発機構)や他大学との共同研究・実験を積極的に行っている。業界のプロや同じ夢を抱く他大学の学生と交流できるのも大きな魅力だ。
 「個人的なプロジェクトでは、2015年3月に、UHA味覚糖株式会社に協力してもらい、同社のソフトキャンディ『ぷっちょ』を燃料とするハイブリッドロケットの打ち上げ実験を行いました。結果は、ぷっちょ20粒で高度約300mまで到達するという大成功でした」
 さらに研究の先に見据えるものは、新たなロケットエンジン、新たな燃料を開発し、めざすは未だ開拓されていない領域のニーズに応える次世代型小型観測ロケットの開発だ。これは高度60km程度まで到達し、上空大気のサンプリングや無重力実験を行うことを目的とする教育・研究分野での利用を想定したロケット。1回の打ち上げの費用を200万円程度に抑えるのが目標だ。旅客機が飛行する高度が約10kmと考えると小型ロケットで高度60kmに到達するチャレンジの難度は間違いなく高い。
 「高度約200kmまで到達できる通常のロケットは1基の製作に約2億円かかる。これでは大学や民間の研究者では手が出ません。私はロケットを使った実験をもっと身近なものにしたい。インターネットだって、ひと昔前は研究者だけが使うものでしたが、たった30年ほどで誰もが使うようになり、さまざまな商品やサービスのアイデアが生まれました。私はロケット利用も同じ道をたどれるのではないかと考えます。宇宙がもっと身近になる未来のためにハイブリッドロケット開発の分野で少しでも貢献できればと思っています」

よく伸び、燃焼器内にしっかり接着し、効率よく燃焼するように低い温度で溶け出すように改良された「低融点熱可塑性樹脂」。餅のような感触のプラスチック燃料だ。

ハイブリッドロケットエンジンの燃焼実験の様子。「破壊的な馬力のロケットエンジンを思い通りにコントロールするのがこの研究の面白さ。つまりじゃじゃ馬ならしなんです」と和田准教授。

2015年3月に和歌山県で行われたぷっちょロケットの打ち上げ実験の様子。全長1.8m、重量約8kgのハイブリッドロケットが、ソフトキャンディ20粒を燃料に天空高く打ち上げられた瞬間、大きな歓声が上がった。

※インタビュー内容は取材当時のものです。