Professor

結城 和久

山陽小野田市立 山口東京理科大学

工学部 機械工学科 教授
熱流動工学

地球上に“人工の太陽”をつくって
日本のエネルギー供給に貢献する

資源のない日本で注目を集める
「核融合」による発電技術

「私たちのミッションは、地球上に太陽をつくって、エネルギーをまかなうこと......」
 メガネの奥のやさしそうな眼が一瞬鋭く光った。山陽小野田市立山口東京理科大学工学部機械工学科の結城和久教授が取り組むのは、「人工の太陽」を実現する基盤研究。キーテクノロジーとなるのは「核融合」である。「核融合とは、重水素や三重水素を用いた核反応で、風船1個分くらいの燃料で、石油10トン分を燃やしたのと同じくらいのエネルギーを得ることができます。太陽が途方もないエネルギーで燃え続けているのもこの核融合反応が内部で起こっているからなんです」
「核」と聞いて、原子力発電を思い起こす人もいるだろう。詳しく説明すると原子力発電で用いるのは、「核分裂反応」。稀少な燃料であるウランが必要になり、放射性廃棄物の問題も直視できない。これに対し、「核融合反応」の燃料となる重水素とリチウムは、海水中に無限に存在し、高レベル放射性廃棄物も排出されないという特徴がある。そのため、資源のない日本のエネルギー自給を支える技術として以前から注目を集めている。

「ポーラス体」を使った新技術で
超高熱負荷を冷却

 フランスでは、ITER(イーター)という核融合の実験炉が現在建設中で、日本を含む世界7か国で2025年の運転開始に向けた共同開発が行われている。実験炉から発 電炉開発の障壁になっているのが熱負荷の問題だ。
「核融合炉の内部は、反応時2億度近い高温になります。特にダイバータと呼ばれるヘリウムを廃棄する機能を持つ部分の熱負荷はロケットノズル級で、これをいかに冷却するかが開発の鍵を握ります。私はこのダイバータの冷却に関する国際共同研究のメンバーとして、新たな『冷却技術』の開発に取り組んでいます」
 この分野では、ヘリウムガスを使った冷却技術の開発が国際的にも積極的に進められている。しかし、非常に高い気圧のもとでガスを扱うため、安全性の問題が 残る。そこで、結城教授は、「ポーラス体」を用いたオリジナルの冷却技術の開発に挑んでいる。
「ポーラス体とは、スポンジやフィルターなど、すき間のある物体の総称。凹凸や穴の空いた形状がつくり出す“表面積の大きさ”が特徴です。私たちは、これを利用して、水分が蒸発する際の気化熱でダイバータを冷却する新たな技術を開発しています。ポーラス体を用いた冷却技術に特化した研究室は世界的に見ても珍しいと思います」

ヘリカル型核融合炉FFHR (提供:核融合科学研究所)

大切なのは、とにかく“考えること”
それが、未知の現象解明の扉を開く

発熱機器の「冷却」技術は
機械工学の重要な研究テーマ

 発熱機器の「冷却」という分野は、機械工学の重要な研究テーマで、例えば、ノートパソコンにもポーラス体を使った「ヒートパイプ」という冷却装置が導入されている。冷却には、伝熱工学、流体工学、材料工学、制御工学など、幅広い知識が複合的に求められる。
「研究において大切なのは、とにかく“考えること”です。ポーラス体を使った冷却 技術であれば、空洞や凸凹の中でどのように熱が伝わるかを自分なりにモデリングしながら、冷却構造を設計します。最近は、コンピュータを使ったシミュレーションも行います。伝熱工学や流体工学の理論に基づくシミュレーションの結果を実験で証明する。これを繰り返しながら、未知の現象を解明していくわけです」
 核融合炉の冷却技術の研究で得た知見は、電気自動車のインバータやスーパーコンピュータの冷却技術、製鉄所の未利用熱回収技術など、さまざまな分野で応用できる。結城教授の研究室でも自動車業界や製鉄業界の企業との共同研究が行われているという。「日本のものづくりは、品質・性能の面で、世界トップクラスなのは間違いありません。それを支えるには、エネルギーの確保は不可欠です。核融合炉が実現され、安定的かつ安価なエネルギー供給が可能になれば、日本のものづくり技術は更に大きく進歩するでしょう。“人工の太陽”を縁の下で支える技術で、日本の産業界に貢献していきたいと思っています」

研究室には、発熱機器の冷却に用いるオリジナルの実験装置が並ぶ

冷却装置に用いる筒状の「ポーラス体」の断面図。銅製のパイプを並べて爆破圧縮して成形する。上が成形前、下が成形後

※インタビュー内容は取材当時のものです。