帝人フロンティア株式会社
技術開発部
アパレル・マテリアル開発課
友滝 勇気
友滝 勇気
普段なにげなく身につけている洋服や下着。その素材にどのような繊維が使われているのか、考えたことはあるだろうか? 繊維と言えば、シルクは肌ざわりがよく、ウールはチクチクしていて、ポリエステルはちょっと硬め……というのがだいたいの印象だろう。
そんな繊維素材を専門的に研究・開発しているのが帝人フロンティア株式会社。繊維開発に携わる友滝勇気さんは、肌ざわりがよく、シワにもならない、夢のような繊維の開発と製造に挑戦する若き研究者だ。
「私は、新規素材開発の部署で衣料繊維の開発を担当しています。衣料と言ってもスポーツ用やインナー、医療用などさまざまですが、私が担当するのは、帝人フロンティアのオリジナルブランドである『ソロテックス®』を用いたファッション衣料の素材・製品開発。ソロテックス®という素材から理想の衣料製品をつくるまでの製造方法を研究し、そのレシピを確立するのが私の仕事です」
帝人フロンティアが開発したソロテックス®は、ナイロンやポリウレタンなどと同じ“合成繊維”の一種。正式には、ポリエステルの仲間であるPTT(ポリトリメチレンテレフタレート)というポリマーを使用している素材だ。その強みは、私たちが耳にすることも多い合成繊維――ナイロン、ポリウレタン、ポリエステルの長所をすべて補っていることだという。
「ソロテックス®は、ナイロンの“ソフトな肌ざわり”と、ポリウレタンのもつ“ ストレッチ性”、ポリエステルの特徴である“ 形態安定性”といった、三大合成繊維がもつそれぞれの長所を持ち合わせている、類まれな素材です。肌ざわりがよく、軽やかに伸び、それでいてしっかり戻ろうとする。こうした特徴を生かして、ソロテックス®は衣料から資材までさまざまな分野で、クリエイションの可能性を無限に拡げ続けています」
発色性にも優れ、環境負荷も少ない。さらには綿や麻といった他の繊維との親和性も高く、さまざまな組み合わせ方ができるという、まったく隙のない繊維・ソロテックス®。そうした素材を用いたファッションテキスタイル開発では、夢のような製品がつくり放題かと期待してしまう。しかし、そう一筋縄ではいかないのが、研究の醍醐味でもあるようだ。
「ニーズが高まる最強の素材ですが、それだけにポリマーの結晶構造が特異で、扱いがとても難しい。私が担当する業務は、研究者が開発した繊維を、最終製品をイメージしながら糸加工、織物設計、染色加工、撥水・吸水などの機能付与加工を施して生地に仕上げるまで。原糸から製品に至るまでの商品開発を行っています。その一つひとつの工程を、単にソロテックス®を使用するのではなく、その特徴を理解しながら、糸の先を見据えてトータルに管理していく必要があります。ファッションというのは流行に左右されるものでもあるので、スピード感も重要です。難しい仕事ですが、未知なる可能性を秘めた素材を用いて製品開発に挑戦できるということに、日々、喜びを感じています」
目を輝かせながら化学と繊維開発の楽しさを語る友滝さん。彼が繊維へ興味を持ったきっかけは、大学時代にさかのぼる。心をつかまれたのは、教科書で見た「モルフォテックス®」という繊維。これは、染色を施さなくてもその特異な構造によって光を干渉させ自ら発色する画期的なものだった。そんな繊維のもつ未知なる可能性に、友滝さんはすぐさま虜になってしまったのだとか。大学院に進学してからは「感性工学」という分野での研究に挑戦。「人はどういうときに感動するのか」という数値化しにくい事象を数値化する研究に従事し、人を感動させることのできる繊維や素材とは何かを突き詰めていった。
「学生時代の経験は、現在の仕事で大いに役立っています。ソロテックス®は、その伸縮性などを生かしてスポーツウェアなどにも使用されることが多く、こうした用途では、消費者のニーズとソロテックス®の推すべきスキルが明確です。しかし、ファッションの特異な点は、見た目や手触りなど、数値化しにくい“感性”によって商品が選ばれること。人の感性を揺さぶるものをつくらないと、買ってもらえないのです。シワのできないスーツが今や当たり前になりつつあるように、繊維には、人々の暮らしを変えてしまうくらいの力があります。ソロテックス®で世界中の人々の価値観や常識を覆す製品を開発し続けることが、私の目標です」
ソロテックス®を使った製品サンプル。他の繊維との組み合わせや特殊な織り方によって、多彩なラインナップを実現している
京都工芸繊維大学 大学院
工芸科学研究科先端ファイブロ科学専攻博士前期課程修了
京都工芸繊維大学工芸科学部物質工学科卒業。京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科先端ファイブロ科学専攻博士前期課程修了。2015年4月、帝人フロンティア株式会社に入社。2016年より技術開発部に所属し、新規素材・加工技術開発やファッションテキスタイル開発業務に携わっている。
マテリアル事業からヘルスケア事業、IT事業など幅広く事業を展開している帝人グループのなかで、帝人フロンティアは繊維・製品を主たる事業とする。業界では唯一、繊維製造と販売を一貫で手掛ける事業体であり、原糸から素材、最終製品までのすべての領域で最適なソリューションや新しい価値を提供。「暮らしは、せんいで進化する。」をコーポレートメッセージとして掲げ、新たな価値創造に挑戦し続けている。