関西学院大学
建築学部 建築学科
(2021年4月開設)
准教授
荒木 美香
ARAKI MIKA
荒木 美香
ARAKI MIKA
日本国内の建築物で使われる材料というと、「木」「鉄」「コンクリート」などが主流だ。しかしこうした建築材料は、世界中のどこにいっても存在するわけではない。世界には“組積造(そせきぞう)”のような、石やレンガを積み上げて造る建築が一般的な国もあるなど、その土地ごとによって構造形式や使われる建築材料は異なる。では、そうしたあらゆる場所やスケールの建築に関わっていく建築士としては、どういった知識が必要になるのか。
荒木美香構造設計事務所の荒木美香さんは、「設計」と「研究」の両輪でさまざまな建築スケールの構造設計に携わってきた建築士だ。自身で設計事務所を運営しながら、2021年4月からは関西学院大学建築学部の准教授に就任し、構造設計や建築材料の広範な知見を学生にも広く伝えていくという。
「建築の設計の仕事は、建物全体のデザインをする“意匠設計”や、主に衛生面やインフラを整える“設備設計”がありますが、そのなかでも私の専門は“構造設計”という分野です。構造設計というのは、地震や風、積雪、家具や人の重量などのさまざまな荷重に耐えうるよう、建物の構造安全性を確認する役割を果たします。私がこの仕事で力を入れていることが2つあり、ひとつが“新しい構造システムを提案すること”、もうひとつが“新しい素材を使うこと”。土地・スケール・コストなどなど……あらゆる条件の建築で応用が効くように、新しい設計の可能性を追究しています」
荒木さんが携わった“新しい構造システム”の例としては、2016年に竣工した長崎県の「丘の礼拝堂」がある。木々が積み上がったような幻想的なデザインが印象的なチャペル。一見、天井から木が吊り下げられているようにも見えるが、実はこの樹状の構造が柱の役割を果たしており、大きな立方体の建物を支えているのだという。建築家の要望するデザインに応えながら、安全性のある構造を実現しているのだ。
一方で“新しい素材”を使用した例も興味深い。2018年に竣工した「TRIAXIS須磨海岸」は、神戸市の須磨海岸に建てられたワンシーズン限りの海の家。仮設の建物でありながらも安っぽさはなく、木質の爽やかな空間が夏らしさを醸し出している。
「屋根の木質パネルは軽やかさを出すためとても薄い素材が使われています。問題は、屋根全体の変形を抑えるための引張材にどんな材料を使うのかということでした。通常だとスチールなどの素材を使用するのですが、コストが限られていました。そこで初めて使用したのが、梱包物の荷締めなどに使われるポリエステル製ベルト。安価で施工もしやすく、途中で緩んできても簡単に締め直しができる点から目をつけました。こういった初めて使う材料の場合、性能を実験で検証することも欠かせません。張力がどれだけ保てるのかを確認するため行った1か月間の引張実験の末、素材の安全性が実証され、正式採用に至りました。設計中にわからないことがあれば実験する。これは私がもともと在籍していた佐藤淳構造設計事務所での教えなのですが、建築士一般で見ると“設計”と“研究”を両方実施するのはそれほど多くはないですね。私はここで得た知見を、迅速な判断が求められる被災地での設計など、今後のさまざまな機会で活かしていきたいと思っています」
多くの理系の研究分野と同じく、建築分野もまだまだ男性が多数派だ。そういった場所で荒木さんのような女性建築士/研究者の観点はどのように活かされているのだろうか。
「女性が関わることで今までにない想像力が働く場面はあると思います。地元の保育園の構造設計に携わった際、もし友人の子どもが通園するとしたらどんなところに気をつければいいのだろう、と考えることがありました。構造設計においては耐震性に大きな意識を向けがちですが、例えば手すりや階段の揺れが怖いなど、身近に触れる範囲の構造も丁寧に設計する必要があると感じています。他には、子どもの頃から好きな編み物の幾何学模様が建築に活かせると考えたこともありましたね。仕事をするなかで“自分は女性である”と強く意識したことはありません。ただ、女性が関わることによって、もしかしたらこうした小さなスケール感で、細やかな構造設計が実現できるようになるのかもしれません」
業界に多様な人材が加わることによって想像の幅が広がり、新しい構造設計が実現可能になることは確かだろう。新しい構造システムに新しい素材、そして新しい想像力。これにより生まれる未知なる建築に期待が募る。
須磨海岸に建てられた海の家「TRIAXIS須磨海岸」。
屋根を補強しているのがポリエステル製ベルト
荒木さんが構造設計で携わってきた建築物の写真。チャペル、海の家、観音堂、エクアドルのCultural Centerなど、スケール・土地などは多岐にわたる
モニターに映っているのが「丘の礼拝堂」。木の“重々しさ”を極力和らげるために、木と木をつなぐ引張材にはスチール製の細い材料を使用。建物の四隅に耐力壁を入れることでこの構造システムが可能になった
「丘の礼拝堂」の構造設計をする際に、樹状の木に安定感をもたらすにはどこに引張材を設ければいいかを検証するためにつくった模型
「TRIAXIS須磨海岸」に使用したポリエステル製ベルトの張力実験の様子
2016年に大地震があったエクアドルの海岸都市・チャマンガへ、復興支援のワークショップで訪問。海外の大学や現地の人と協働して、若者の文化的な活動の場である「Cultural Center」の設計・施工を行った
荒木美香構造設計事務所
2008年に東京大学大学院建築学専攻修士課程修了。2008年~2019年まで佐藤淳構造設計事務所に在籍。2012年~2014年、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻の学術支援専門職員を経て、2014年~2017年、2019年~同大学院で特任研究員として従事。2020年に荒木美香構造設計事務所を設立。2021年4月より、関西学院大学建築学部建築学科准教授に就任。
緑豊かなKSC(神戸三田キャンパス)では理工学部と総合政策学部の学生が学びを深めてきました。2021年4月からはこの2学部を改組・発展させ、理学部、工学部、生命環境学部、建築学部の4学部を新設するとともに、総合政策学部は学術的、国際的な学びを拡充。これによりKSCは文・理5学部を擁する文理横断型のキャンパスに生まれ変わります。質の高い充実した教育・研究を実現し、社会にイノベーションを起こす拠点を目指します。
アウトドア総合メーカー「Snow Peak」と包括連携協定を締結。豊かな自然に恵まれたKSCに学生同士がテントを張って勉強やディスカッションを繰り広げたり、夜には焚火を囲みながら教職員も一緒になって語り合える新しい学びの場「Camping Campus」が誕生します。教室や施設利用時間といった既存の空間や時間の概念も、学生と教職員との垣根なども飛び越え、地域社会や企業を巻き込みながら、学生自身が率先して学びたくなる、固定概念にとらわれない新たな教育の場を創造します。
■ 神学部 ■ 文学部:文化歴史学科/総合心理科学科/文学言語学科 ■ 社会学部:社会学科 ■ 法学部:法律学科/政治学科 ■ 経済学部 ■ 商学部 ■ 人間福祉学部:社会福祉学科/社会起業学科/人間科学科 ■ 国際学部:国際学科 ■ 教育学部:教育学科 ■ 総合政策学部:総合政策学科/メディア情報学科/都市政策学科/国際政策学科 ■ 理学部※:数理科学科/物理・宇宙学科/化学科 ■ 工学部※:物質工学課程/電気電子応用工学課程/情報工学課程/知能・機械工学課程 ■ 生命環境学部※:生物科学科/生命医科学科/環境応用化学科 ■ 建築学部※:建築学科
※ 2021年4月開設
トヨタ自動車、川崎重工業、ダイキン工業、富士通、日立製作所、日本電産、キヤノン、パナソニック、三菱電機、旭化成グループ、京セラ、伊藤忠商事、住友商事、三井物産、西日本電信電話、KDDI、楽天、サイバーエージェント、鹿島建設、大和ハウス工業、積水ハウス、全日本空輸、日本航空、ANA関西空港、東海旅客鉄道、日本通運、高島屋、良品計画、みずほフィナンシャルグループ、三井住友銀行、三菱UFJ銀行、住友生命保険、日本生命保険、野村證券、大和証券グループ など
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