新型コロナウイルス感染拡大の影響で、海外とのビジネスを展開する航空業界、旅行業界などの企業は、大きなダメージを受けました。ただし、結論から言うとコロナ禍で、グローバルビジネスが縮小することはありません。むしろ巣ごもり消費によって、ゲーム機のハードを製造しているメーカーなどは、世界市場で売上を伸ばしています。また、2021 年は世界的に自動車の売上が好調でした。日本の自動車メーカーの中には、コロナ前の販売台数を超える業績を挙げているところも。
グローバルビジネスというと航空業界など、海外へ行くような仕事をイメージしがちですが、海外のパートナーと密に取引をしている企業は、メーカーや商社など、ほかにもたくさんあります。こうした企業のグローバル展開は、今後ますます拡大していくのです。
日本の中小ものづくり企業が得意とする尖った技術の市場はニッチであり、国内だけではボリュームが不足します。そのため、海外市場も視野に入れた開拓が進むのです。企業は海外市場に活路を求めなければ、成長することができません。アフターコロナの時代は、内向きになるどころか、どんどん外に向かってビジネスをすることになるでしょう。
海外展開をするのは、自動車業界や家電業界の大企業ばかりだと考えてはいけません。これからは、中小企業もグローバル化に挑戦する時代がやってきます。前述した通り、縮小する国内市場だけをターゲットにしていては生き残れないのです。
私は大学教員になる前、日本のメーカー企業に勤務していたことがあり、世界各国の製造工場を視察した経験があります。それを踏まえて申し上げるのですが、日本各地にある中小企業が持つ金型や部品加工などのものづくり技術は、世界的に見ても大変高いレベルにあります。TVドラマ『下町ロケット』のような優秀な会社がたくさんあるのです。ただ、海外展開を考えていない町工場の会社の社長に、突然海外に向けて営業をしたほうがいいと言っても難しいのは当然です。そこで、日本各地にあるものづくり企業と海外のパートナーをつなげる役割を担えるようになれば、きっと大きなビジネスチャンスが得られるでしょう。これは、最近注目を集める「地域活性化」にもつながります。
こうした企業のグローバル経営に興味がある人は、「サプライチェーン」という言葉を知っておきましょう。これは、和訳すると「供給の連鎖」。例えば、スマートフォンの製造工程ならば、半導体などの部品をつくる原材料の調達から完成品の販売に至るまでに関わるすべての国や企業のつながりを指します。世界的に普及しているスマートフォンの中身に日本でつくられている部品が入っていることもあるし、日本で販売する製品でも部品はすべて海外の国々で製造しているケースも珍しくありません。つまり、日本国内で働いていても海外の取引先とやりとりをするチャンスは日常的にあるのです。
自動車でもパソコンでも食品でもいいので、 気になる企業の製品の「グローバル・サプライチェーン」を調べてみると今まで知らなかったおもしろい仕事が見つかるかもしれません。アフターコロナこそ、広い視野で将来の活躍の場を探してみてください。
慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、ソニー株式会社に入社。20年以上に渡り、海外のサプライチェーン・マネジメントなどに従事。退職後、埼玉大学大学院人文社会科学研究科博士後期課程経済経営専攻修了。2015年4月より現職。
ゼミ全体の研究テーマは「国際経営論」。ソニーで長年勤務してきた経験を活かし、学生と一緒に多国籍企業の経営手法の比較分析などに取り組んでいる。また、研究者としては「中小企業の国際化・自由化」を課題に設定している。地域における中小のものづくり企業に注目し、その高い技術力をグローバル市場で活かせるようなマッチングの仕組みの構築をめざしている。