前田 秋彦
京都産業大学
生命科学部 産業生命科学科 教授
ウイルス学/環境衛生学
京都産業大学
生命科学部 産業生命科学科 教授
ウイルス学/環境衛生学
前田秋彦教授の研究テーマは「ウイルスの生物学」だ。獣医学をバックグラウンドに、感染症の原因となるウイルスの増殖の仕方や自然界での存在様式を調べている。京都産業大学生命科学部産業生命科学科に赴任する前には、国立感染症研究所で致死率の高いエボラ出血熱やマールブルグ熱などの検査法の開発に従事。コロナウイルスについても長年研究を続けてきた。
「インフルエンザウイルスやコロナウイルスには、人だけでなく豚、牛、鶏などの家畜や、犬、猫などのペットにも感染するものがあります。従来のコロナウイルスは動物の致死率は高かったのですが、人の場合は感染しても、鼻風邪程度で済むのが普通でした。しかし今回の新型コロナウイルスは、感染した人が世界中で数十万人も亡くなっており、ウイルス学者たちを驚かせました」
いったいなぜコロナウイルスの致死率が高まり、人間界にどのように広まっていったのか。それを明らかにするためには、「自然界でのウイルスの存在様式を知ることが、非常に重要だ」と前田教授は語る。
「コロナウイルスをはじめ、人に病気を起こすウイルスには、普段は動物や虫などを宿主としているものが多数存在します。そうしたウイルスが原因の感染症を治療、予防するには、人だけでなく、宿主の生物と自然との関わりを見る必要があるのです」
現在、京都産業大学で前田教授が力を入れているのが、蚊やダニが持つ人に感染するウイルスの研究だ。蚊は日本脳炎、ジカ熱、デング熱など、ダニは重症熱性血小板現象症候群(SFTS)など、ときに命に関わる感染症のウイルスを媒介する。前田教授の研究室では学生とともに、京都のさまざまな場所で蚊とダニを採取し、どんなウイルスを持っているか分析を続ける。2013年の調査では、日本のマダニからアフリカにしかいないと思われていたウイルスを発見した。
「自然界に存在するウイルスのうち、人類が現時点で把握しているのは、人や家畜に関わるわずかな種類だけです。人間が知らないウイルスはまだまだ多く存在し、その生態や活動もわかっていないことだらけなのです」
一方で、ウイルスは感染症の原因となるだけでなく、人や動物の生命にとって多大な恩恵をもたらしている。
「ヒトを含むすべての哺乳類の遺伝子には、過去に感染したと思われるレトロウイルスのDNAが断片的に含まれています。最近の研究で、そのウイルス由来のDNAが、赤ちゃんを包む胎盤の形成に重要な役割を果たしていることがわかりました。つまりウイルスに感染したことによって、哺乳類は過去のある時期に進化を果たすことができたのではないか、と考えられるのです」
ウイルスの役割はそれだけではない。海洋の中のウイルスには、漁業に甚大な被害をもたらす赤潮を消滅させるものもいる。雲の形成や二酸化炭素の蓄積にも影響を与えるウイルスが確認されており、環境中に存在する膨大なウイルスによって、地球の生態系は保たれていることがわかってきた。
「学生と一緒に研究していると、わからないことがどんどん増えていきます。しかし意味不明な結果が出たほうが、おもしろいんです。ウイルスについてはまだ研究が始まったばかりの領域が山ほどあり、特定の分野を突き詰めていけば誰もが『第一人者』になれる可能性があります」
ウイルスの生物学を学ぶことで得られる知識は、公衆衛生や医療の現場、自然保護、食品の製造管理、農業や畜産など、幅広い領域で求められている。近い将来、新型コロナウイルスが収束したとしても、世界規模のパンデミックはまた起こる可能性がある。そのときヒト・動物・自然界全体でのウイルスの振る舞いをトータルに把握し、適切な社会のあり方を提案できる人材を、京都産業大学生命科学部から輩出するのが前田教授の夢だ。
私たち人の健康(医学)を考える場合、人と関わりの深い動物(獣医学)や、人と動物を取り囲む環境(環境学)を包括する大きな意味での「健康」(=One Health)を考える必要がある
マダニは草上に数千個産卵する。孵化すると幼ダニとなり動物から吸血する。吸血後、若ダニになり、動物から吸血する。次に成ダニとなり、吸血、交尾、産卵を繰り返す
京都市で捕獲したマダニから分離したトゴトウイルスの模式図(A)。トゴトウイルスを培養細胞に感染させたところ、全ての細胞でウイルスの蛋白質が検出された(B)
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京都産業大学のキャリア形成支援プログラムは、全学部・全年次の学生を対象に多彩な科目を開講。「大学での学び」と「社会での実践」を段階的に積み重ねていくことで、個性や自主性を養い、自ら考え行動する「社会で活躍できる人材」を育成しています。
企業や自治体と提携して進める「O/OCF-PBL(On/Off Campus Fusion-ProjectBased Learning)」や「インターンシップ」など、段階的にキャリアを形成していくカリキュラムにより、社会で活躍する素養を身に付けます。
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