西籔 和明
近畿大学
理工学部 機械工学科 教授
機械加工学/複合材料製造学
近畿大学の全学的なコロナ対策プロジェクトの一貫で、近畿大学でデザインを教える教員と共同開発したプラスチック製のマスク
近畿大学
理工学部 機械工学科 教授
機械加工学/複合材料製造学
近畿大学の全学的なコロナ対策プロジェクトの一貫で、近畿大学でデザインを教える教員と共同開発したプラスチック製のマスク
「これを読む高校生の皆さんは、『炭素繊維』をご存知でしょうか? プラスチックに混ぜることで鉄よりもずっと強く、重さはたった4分の1に抑えられる魔法のような素材をつくることができます」
近畿大学理工学部機械工学科の西籔和明教授は、「炭素繊維強化プラスチック」(CFRP)の研究者だ。炭素繊維は今から約60年前に発明され、ロケットや航空機、テニスラケットや釣り竿などの素材として幅広く活用されている。最新の航空機ボーイング787は機体重量の半分以上がCFRPでつくられ、軽量化により大幅に燃費が向上した。特に近年は自動車の材料としての利用が注目を集めている。
「体重60kgの人間を1人運ぶために、1トン以上の重さの自動車を動かすのはエネルギーの無駄です。現在の車が鉄でできているのは衝突時の乗員の安全性を担保するためですが、自動運転の時代が到来すれば事故は激減します。軽くて丈夫なCFRPは、自動運転車に最適な素材なのです」
各自動車メーカーもCFRPの有用性を認識し研究を進めているが、まだ採用された車種は少ない。その理由について西籔教授は、「金属に比べて製造コストが高く、折り曲げなどの加工が難しいこと」を挙げる。CFRPには熱を加えると硬くなる熱硬化性のものと、熱で柔らかくなり冷えると固まる熱可塑性のものがある。後者はリサイクルが可能なため、使用量が増えるほどコストが安くなる。地球環境に与える影響も低減できるため、産業用素材として大きな可能性があるという。
「CFRPの用途として期待される機械には他にも、産業用ロボットやドローンなどがあります。電気自動車のような動く機械にはモーターとバッテリーが必要ですが、機体重量のかなりの部分をその2つが占めます。CFRPでモーターとバッテリーをつくることができれば大幅に軽量化できますので、将来『空飛ぶクルマ』が実現するかもしれません」
西籔教授の研究室に設置された「三次元デジタイザ」と呼ばれる装置。対象測定物の3次元形状を、ロボットアームに搭載されたカメラが髪の毛の5分の1の精度でスキャンできる。この装置で、製作したCFRP成形品を解析している
熱可塑性CFRPの成形温度は300~400℃と高温で、粘度も高く、少し時間が経つと冷えて固化してしまう。またプラスチックの中に含まれる炭素繊維の並ぶ方向によって物性も変わるため、コンピュータで仕上がりを計算しながらモノづくりを設計する必要がある。
「現在、熱可塑性CFRPの加工技術では、ドイツやオランダなどヨーロッパの国々が先行しています。実は現在主流の炭素繊維は、60年前に大阪の工業技術院に所属されていた進藤昭男先生が発見した『ポリアクリロニトリル繊維を蒸し焼きにする』方法で作られているんです。日本人が発明した炭素繊維の応用技術を、この大阪の地で確立して、世界に広めていくことが私たちの目標です」
産業全体に大きなインパクトをもたらすCFRPの大量生産を実現するため、西籔教授は今、製造装置や加工技術の開発を中心とした研究に取り組んでいる。研究のパートナーを組むのが、近畿大学理工学部のある地元・東大阪市の中小企業だ。
「東大阪市には非常に高い技術を持つ町工場が集積しており、とくにCFRP生産の鍵を握る『金型』の製造に関しては世界トップレベルにあります。私の研究室の学生たちは、東大阪の企業の方々にアドバイスをいただきながら、CFRPの折り曲げや切断を行う装置を開発しています」
学生のときから東大阪の企業で働く技術者たちと一緒にモノづくりに取り組む経験を積むことで、卒業後にも役立つ社会人としての基礎が身につくと西籔教授は言う。研究室には金型の製造装置やプラスチックの射出成形機、製造したCFRPの形状や歪みを画像評価できる特殊な3次元スキャナーなど、多様な機器がそろっている。
「近畿大学の研究は、近大マグロをはじめ『世の中に役立つこと』を目指す姿勢が一貫しています。CFRPの生産技術の確立も、世界中の自動車メーカーや産業機器メーカーが今この瞬間、喉から手が出るほど求めています。実社会で本当に求められる知識や技術を、私たちの研究室から発信したいと思っています」
CFRPで作られた「航空機内部の補強材」の模型。リベットなどの接合部材もCFRPにすることでより軽量化につながる
炭素繊維強化プラスチックをCADで設計した通りの形にする射出成形機。学生たちは町工場の技術者たちから金型作りを教わり、この装置でプラスチック成形を実体験する
大阪のモノづくり企業とともに作ったCFRPを接合する装置。熱可塑性CFRPは金属のように熱で「溶接」ができる
近畿大学は14学部を擁する、医学から芸術まで多様な学問分野をそろえた総合大学であると共に、大学院、通信教育部、病院、研究所の他、二つの短期大学、高等専門学校、看護専門学校、高等学校、中学校、小学校、幼稚園を擁する一大教育機関です。学園全体の学生数は52,000人を超えています。
2017年4月、東大阪キャンパスに「ACADEMIC THEATER」がオープンしました。スマホで予約できる24時間利用可能な自習室や、マンガ2万2千冊を含む全く新しいコンセプトの図書スペースが併設されています。アカデミックシアターは、文系・理系の垣根を越えて社会問題を解決に導く拠点として、実学教育の発信の場となっています。
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東海旅客鉄道、ダイハツ工業、ヤマハ発動機、日立造船、きんでん、タカラスタンダード、ノーリツ、グンゼ、大阪府教育委員会、近畿大学大学院、大阪大学大学院、北海道大学大学院 ほか
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