Professor

井上 啓

山陽小野田市立 山口東京理科大学

工学部 電気工学科 教授
カオス/ニューラルネットワーク

AIでも予測できないカオスな事象を
定量化する新しい「尺度」を創造する

この世界にはどうしても
わからないことが存在する

 まじカオス—SNSなどでこんなフレーズを見かけることも多いだろう。「カオス」を直訳すると「混沌、無秩序」。簡単に言うと「ワケわからない状態」のことである。

 このカオスと真剣に向き合っている研究者がいる。山陽小野田市立山口東京理科大学工学部電気工学科の井上啓教授だ。

「カオスとは、比較的簡単な規則に支配された予測困難な振る舞いのことを指します。身近な例としては、水道の蛇口から落ちる水滴の挙動、川面を流れる木の葉の動き、天気図の変動などが挙げられます。こうした現象は、詳しく原因を調べれば、予測可能だと考えられてきました。しかし、この世界には、やはりどうしてもわからない不規則性が存在するのです」

 話を整理しよう。まず、蛇口から落下する水滴の時間間隔は、水量が少ないときは規則的だが、やや多くなるととたんに不規則になる。水滴の落下は、いかなる分量においても地球上における同じ普遍的な物理法則に支配されているのは間違いない。しかし、現実には、水量がやや多くなっただけで、水滴が落ちる時間間隔の予測は難しくなるのだ。

 AI(人工知能)の登場であらゆる現象が数値化されつつある現代においてなお、この世界にはカオス、つまり「どうしてもわからない不規則性」は存在する。井上先生は、カオスと向き合い、何を明らかにしようとしているのか—。

「私はカオスを解明しようとは考えていません。この科学の時代においてもカオスは存在するのです。私の研究テーマは、情報理論によるカオスの定量化とその応用です。『カオス尺度』という情報理論的尺度を用いて、カオスの度合を調べているのです。例えば、グチャグチャしている不可解な現象があるとします。そこに規則性を見つけるのではなく、どのくらいグチャグチャなのかを独自の尺度で測る。それが『カオス尺度』なのです」

 情報理論の観点から見れば、カオスは時間経過とともに情報量が増大していく、ある情報生成過程と見ることができる。カオス的な振る舞いにおいては、最初のごくわずかな違いが時間とともに爆発的に拡大されていく。このカオスの量が急激に拡大する地点を探るのが「カオス尺度」の役割と考えていい。

ニューラルネットワークを用いた乳がん患者の生存率の予測モデル

グチャグチャした予測不能な現象が
どのくらいグチャグチャなのか測る

ニューラルネットワークを用いて
がん患者の生存率を予測する

 井上教授の研究室では、「カオス尺度」の研究で培ったデータ分析の知見を用いて、異なる領域の研究も進められている。そのひとつが、同大学薬学部とコラボレーションした、ニューラルネットワークを用いて乳がんや肺がん患者の生存率を予測するモデルの確立だ。ニューラルネットワークとは、AIの研究分野のひとつ。話題のディープラーニング(深層学習)の源流となる技術基盤だ。

「ベースにあるのは統計学なんです。私はもともと時系列データからカオスの程度を予測するという研究をやってきたわけですが、今回のがん患者の生存率の予測においても時系列の数値データを統計学を用いて分析するという点で共通点は多いのです。話題のAIやデータサイエンスの分野でもカオス研究の知見が応用できる場面は多いと思いますよ」

 井上教授の夢は、さらに異なる分野の企業や研究機関の人たちとコラボレーションをすること。この予測不能な世界に新しい価値をもたらすのは、「カオスを測る」という新しい尺度なのかもしれない。

「世界は、皆さんが思っている以上にわからないことだらけです。AIによるデータ分析だって、過去の事例を参照して、限られたデータから最適解を割り出しているだけですよね? 人間と同じで世界は合理性だけを求めて動いているわけではありません。今回の新型コロナウイルス感染拡大のように、どうしてもわからないことは起こるのです。だからこそ、目の前に予測困難なこと、つまりカオスが現れたとき、それがどの程度の強さのカオスなのかを定量的に測る尺度があってもいいのではないでしょうか」

研究室の学生たちは、それぞれ独自のテーマを決めて研究を進めている。彼らの指導も井上教授の大切な仕事だ

研究室には、カオスや情報理論の研究書がズラリと並ぶ

「カオス尺度」を表したイメージ図の例。複雑な挙動ほどカオス尺度の値は大きくなる

山陽小野田市立 山口東京理科大学

世界を視野に地域のキーパーソンとなる

地域産業界・医療界の中枢で活躍する人材(キーパーソン)となるには、学問の本質に迫る深い専門知識を有し、応用を創造できる力が必要です。山陽小野田市立山口東京理科大学では、高度な専門知識と応用技術、研究方法を習得し、事象の本質的な理解を深めるとともに、応用を創造できる能力と、課題を発見し解決できる能力を身につけた、独創性豊かな人材を育成します。

確かな基礎教育

工学部では、工学の礎となる数学・物理学・化学を十分に理解し、高度な専門知識と応用技術を修得する体系的な教育プログラムを導入しています。薬学部では薬剤師として求められる基本的な資質を身につけ、人間性・倫理観・研究心を兼ね備えた薬剤師・薬学人を養成します。

学部学科

■ 工学部:機械工学科/電気工学科/応用化学科 ■ 薬学部:薬学科

主な就職実績

宇部興産、宇部フィルム、大分キヤノン、関西電力、再春館製薬所、JFE スチール、四国旅客鉄道、芝浦メカトロニクス、ゼンリン、太平洋マテリアル、テルモ山口、東芝インフラシステムズ、日亜化学工業、日本板硝子、日鉄高炉セメント、日立造船、日立パワーソリューションズ、マツダ、三井住友建設、三井ハイテック、三菱電機ビルテクノサービス、山口県学校教員 ほか

主な進学先(※2020年3月工学部卒業生実績)

山陽小野田市立山口東京理科大学大学院、東京理科大学大学院、九州大学大学院、岐阜大学大学院、九州工業大学大学院、静岡大学大学院、広島大学大学院 ほか

お問い合わせ先

〒756-0884 山口県山陽小野田市大学通1-1-1
広報課 TEL:0836-88-3500