井口信和
近畿大学
理工学部 情報学科 教授
情報ネットワーク応用/ネットワーク運用管理支援システム開発
近畿大学
理工学部 情報学科 教授
情報ネットワーク応用/ネットワーク運用管理支援システム開発
インターネットは、現代社会を支える重要なインフラ。そのメンテナンスなどを裏方で受け持つのがネットワーク技術者である。複雑なネットワークを誰もが簡単に使えるようにするため、技術者には高いスキルが求められる。
近畿大学理工学部情報学科の井口信和教授はこう指摘する。
「優れた技術者が、日本では圧倒的に不足しています。情報技術関連ではAIに注目が集まりがちですが、そのインフラとなるネットワーク技術をなおざりにすると、日本の将来に影響しかねません」
ただし、ネットワーク技術を学ぶのは、簡単なことではない。実践的に学ぼうとするなら、小規模でも実際にネットワークを構築するのが望ましい。その上で、通信トラブルなど各種ネットワーク障害や、ハッキング対応などセキュリティ関連の訓練を行う。
とはいえ、リアルにネットワークを構築するには、専用の機器などを揃える必要があり費用がかかる。現実的に学ぶには外部ネットワークとの接続も必要だが、その場合はセキュリティ上のリスクが発生する。そこで井口教授は、学生個人のパソコンの中に仮想的にネットワークを構築し、シミュレーションを繰り返しながら学べるシステムを開発した。
AI を搭載したロボット「Sota」とネットワークの構築演習を行う。ロボットに質問でき、ロボットが質問することもある
「あくまでも仮想ネットワークなので、規模の設定なども自由自在です。意図的にネットワークに攻撃を仕掛けて、防御法を練習することもできます。仮想とはいえリアルにつくり込んであるので、ハッキング演習のときなど学生はかなり怖い思いをするようです」
学びの効果を高めるために導入されたのが、上級者と初級者が2人1組で学ぶ「協調学習」だ。上級者は相手にわかりやすく教えることで自分の理解が深まり、初級者は同じ学生が相手なので気軽に学べる。さらに、井口教授は、AIロボット「Sota(ヴィストン社製)」をパートナーとして起用し協調学習を進化させた。
「学生がパートナーなら2人揃わないと学習できなかったり、2人の習熟度の違いによっては協調学習が狙い通りの成果を出せなかったりするケースもあります。ところが相手がAIロボットなら、一人ひとりのレベルに合わせたきめ細かなサポートも可能です」
例えば、学生が問題を見ながらコマンドを打ち込むと、それをSotaが判断して、学生に意図を質問する。上級生の代わりにSotaが学生をリードする学習スタイルだ。Sotaはクラウド上に構築されたAIシステムにより学生に的確に対応する。
「ときにはSotaがわざと間違った内容を学生に伝えて、その間違いに学生が気づくかどうか試したりもします。ここまでレベルの高い対応ができるのは、ヴィストン社のクラウドシステムによりSota自身もディープラーニングを活用しているからです」
日本におけるインターネットが今ほど普及していない頃からネットワーク研究に関わってきた井口教授は、途方もない夢を持っている。その夢とは、距離と時間の概念を完全に覆したインターネットの内部を、自らの五感で確かめることだ。
「例えば、日本国内の相手に送ったメールでも、パケットデータは世界を駆け巡っている可能性があります。隣の研究室にいる学生に送ったメールが、アメリカを経由して届いていたりする。その経路をパケットに自分が仮想的に乗っかって見てまわりたい。世界中を瞬時に移動する旅を実現したいのです」
途方もないアイデアを「そんな馬鹿なこと、できるわけがない」と切り捨てないのが、大学のいいところだと井口教授は強調する。
「文系理系など関係なく、自分の思いつきを大切にしてほしい。とんでもないアイデアこそが、優れた発明につながるのです。近畿大学には、突飛もないアイデアを“おもろいやん!”と言ってくれる先生が数多くいます。ぜひ、面白いアイデアを持って大学に進んでください」
この「ホロレンズ」をつけると、MR(Mixed Reality)により、例えば遠くにあるサーバーを手元のパソコンで遠隔操作できる
作業者と確認者により入力コマンドのダブルチェックを行うネットワーク運用管理支援システム
産学連携によるプログラミング教育にも積極的に取り組んでいる
※インタビュー内容は取材当時のものです。