天野直紀
東京工科大学
工学部電気電子工学科 准教授
センシング/IoT
東京工科大学
工学部電気電子工学科 准教授
センシング/IoT
IoT……Internet of Things。「モノのインターネット」と訳される注目の新技術は、AI(人工知能)と並んで急速に一般化してきた。世の中のあらゆるものがインターネットとつながるIoTの研究領域とはどのようなものだろうか―。
IoTを専門とする東京工科大学工学部電気電子工学科の天野直紀准教授は、こう語る。
「IoTというとスマホやPCの中の世界を思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、こうした技術は、バーチャル空間からリアルの世界にじわじわと入り込んできています。ヒューマノイドや自動運転車の開発によって、IoTが担う領域はますます広がっています。ここで私が取り組んでいるのは、IoTを身近な安全のために役立てる研究。キーワードは、『センシング技術』です」
天野先生が取り組んでいるのは、IoTを用いて、社会インフラを監視するシステムの開発だ。照明柱や信号柱、道路沿いの斜面など、身のまわりの社会インフラが安心・安全な状態に維持されるためには、さまざまな状況や変化をモニタリングするシステムが必要になる。しかし、人口減社会を迎える日本において、これを人が監視するのは非現実的だ。そこで、IoTの技術を用いて、安価で長持ちする監視システムの開発に可能性を見出した。
「地すべりしそうな斜面を監視するシステムは現在もあります。しかし、旧来は一箇所の計測だけでも高額な装置が必要で、本当に危険な場所にしか設置できていないのが実状です。そこで、私たちは既存システムの10分の1の費用で、小型かつ低消費電力のモニタリングシステムを開発しました。現在は、土木系コンサルティング企業と共同で、沖縄県内の斜面にこれを実際に埋め込み、モニタリングとデータ分析を行っています」
モニタリング機器の中身は、3軸の加速度センサー、マイコン、近距離通信チップを組み合わせたシンプルなもの。タテ・ヨコ・高さの3方向の振動をセンサーで計測し、収集したデータを内蔵する通信チップを用いて自動送信する。手のひらサイズの装置には、センシング、データ解析、通信技術などさまざまな学びが詰まっている。
「実験では、研究室の学生も沖縄に連れて行き、現場で計測を行います。斜面や照明柱を実際に目にすることで、自分たちが挑んでいる問題の重要性や研究の意義を実感できます。現在は、沖縄県内に設置したモニタリングシステムを使って、より緻密なデータを入手し、状況監視だけでなく、危険予測に役立てる方法も模索しています」
IoTを用いたモニタリングシステムの全体像。情報技術を安心・安全のために役立てる優れた事例だ
天野先生は、東京工科大学で大学院まで学び、その後、現職に就いた。学生時代の研究テーマは、「ロボットビジョン」。動いているものを検知する研究で、現在取り組むセンシング技術に通じる要素もある。しかし、対象となるのは、振動ではなく画像。AIによる画像認識技術などが話題になる昨今、なぜ振動に注目したのか―。
「ご存じのように画像や動画はデータ量が膨大です。1分の動画データが1GBになることもあります。その点、今扱っている斜面のモニタリングデータは、1スポットの1年分が10MB程度。通信やデータ処理に必要な計算量や消費電力を考えると圧倒的に効率的です。ここに可能性を感じたのです」
温度や色、振動など、この世界のさまざまな現象を計測し、数値化するセンシング技術は、どのような未来を私たちにもたらすのか?
「私たちが暮らす物理世界とコンピュータの仮想世界をつなぐのがセンサーの役割です。AIやIoTの機器は、センサーが取得したデータによって、世界を認識しているのです。つまり、情報社会におけるセンシング技術の需要は、ますます高まるでしょう。AI・IoT時代を支えるこの先端技術を安心・安全な暮らしのために役立てる研究分野があることをぜひ知ってほしいと思います」
実際に沖縄県で斜面に埋設されている装置の原型。このような装置が地中にコンクリートで固定されている。
沖縄県本部町にある橋でのモニタリング実験の様子。学生も積極的に現地フィールドワークに参加する
天野先生は、IoTに関する専門書も執筆している
※インタビュー内容は取材当時のものです。