柏山祐一郎
福井工業大学
環境学部 環境食品応用化学科 教授
生化学/生物有機化学
福井工業大学
環境学部 環境食品応用化学科 教授
生化学/生物有機化学
太陽の光を利用して、水を分解して酸素をつくり、二酸化炭素から有機物を生成してエネルギーに変える。「光合成」の仕組みは小学校で学ぶほど馴染み深い自然界の働きだろう。私たち人間の営みにも、生きていくうえで植物が生み出す酸素や、植物や植物を捕食して育つ動物から得られるエネルギーが不可欠である。つまり地球上の生命活動は、植物の「光合成」によって支えられていると言っていい。地球上の生命活動を支える最大のエネルギー源が「光合成」なのだ。
では光合成を行う「植物」は、どのようにしてこの地球に誕生したのだろうか。そんな生命の進化への追求こそが、福井工業大学環境学部環境食品応用化学科の柏山祐一郎教授が長年にわたって取り組み続けるテーマである。
「藻類を捕食する真核生物を研究していたときに、“藻類を捕食する変わった藻類”がいるという話を聞いて、その『ラパザ』という藻類を調査してみることに。すると実はそのラパザが藻類ではなく、藻類から光合成の機能だけを利用する生物だということがわかったのです」
それは柏山教授が学部生以来、専門としていた地球科学の世界を飛び出して2~3年後のこと。有機合成や有機化学の視点を用いることで新たに進化について探究ができないかと、生物学の世界へ足を踏み入れた頃の話だ。
そもそも地球上で初めて酸素発生型の光合成を行ったのは原核生物に区分される細菌の一種、シアノバクテリア(ラン藻)だ。その後、人類と同じタイプの細胞を持つ真核生物がシアノバクテリアから光合成のための葉緑体を獲得して植物が誕生したと考えられている。しかしこの葉緑体獲得のプロセスが、長く謎に包まれている。
「ラパザが藻類を捕食する様子を観察していたのですが、どれだけ観察しても捕食した藻類を消化しているように見えない。そこで葉緑体のゲノムを調べたら、ラパザが持っている葉緑体が捕食した藻類の葉緑体と同一のものだとわかった。つまりラパザは元から葉緑体を持つ藻類ではなく、藻類から葉緑体の機能を“盗む”真核生物だとわかったのです」
このように他の藻類から葉緑体を奪って利用する一過的な植物化を「盗葉緑体現象」と呼ぶ。その後、研究を進めるとラパザは盗んだ葉緑体を分割して、細胞分裂する際に分配し、増殖していくことまでわかってきた。
「葉緑体をコントロールするための遺伝情報をさらに他の藻類から取得するなど、ラパザは植物化のための驚くべき機能を備えています。これまで発見されたどのような生物と比較しても、ラパザはいちばん植物の近くにまで到達した真核生物だと考えていい。その機能を解き明かすことで、植物が地球上に誕生したプロセスに辿り着くことを期待しています」
ラパザの盗葉緑体現象の顕微鏡観察。ラパザは取り込んだ緑藻テトラセルミス細胞の葉緑体のみを分離して維持する
現在は、生物有機化学やゲノム編集を取り入れた生化学を主なフィールドとする柏山教授だが、学部生時代には化石や地質を学び、大学院では堆積学や地球化学を専門としていた。「生物の進化」というテーマを追い続けるためならば、分野の垣根は大きな問題ではなかった。
「専門分野は何ですか? と聞かれますが、私自身は分野をあまり意識していなくて。生物の進化を解明するために、その時々で必要な知識や研究手法を身につけていたら、結果として多様な分野を渡り歩くことになっていました」
しかし、この専門性にこだわらない姿勢こそが柏山教授の個性であり強みである。
「例えば、生物学の先生ならば絶対やらないことも、私ならば『やってしまおう』と思う。他の研究分野から来た部外者だから遠慮がないというか、常識外れというか。もちろんそのせいでいろいろと失敗することもありましたが」
専門分野の常識に縛られない視点、他の領域に飛び込むことをいとわず、多くの研究者とつながる軽快なフットワーク。柏山教授の話を聞いていると、こんなに自由で個性的な研究者もいるのかと驚かされる。
「事前に勉強しすぎると、その分野の常識に発想が縛られてしまうことがある。もちろんある程度の基礎は不可欠ですが、私は必要性に応じて知識を取り入れてきた。柔軟な発想力や視点を保つためには、時に勉強に“毒されてしまう”のも考えものなのです」
(写真左から)ラパザ細胞が右の緑藻細胞にかじりつき、飲み込みはじめる。5分ほどでラパザ細胞内部に完全に取り込まれる(撮影:丸山萌)
ラパザ研究を9年間牽引した丸山萌さん
ラパザの盗葉緑体現象。ラパザは取り込んだ緑藻細胞のうち葉緑体のみを分離して維持し、分割させて娘細胞に分配する。その後、自らの核ゲノムにコードされたタンパク質を、盗葉緑体内部まで送り込んでチューニングしながら光合成を続ける
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2023年夏、口径13.5m高性能パラボラアンテナをあわらキャンパスに新設。アポロ計画以来となる人類の月面着陸をめざす、月面有人探査国際プロジェクト「アルテミス計画」において、JAXAが打ち上げる地球-月ラグランジュ点探査衛星「エクレウス」の運用に参画し、新設するパラボラアンテナの性能実証を行います。このような規模と性能を有する衛星地上局は大学・民間では国内唯一であります。JAXA・自治体・企業との産学官連携、国立天文台の協力による様々なプロジェクトを実施しており、宇宙技術開発、宇宙科学、宇宙産業に貢献する人材育成の拠点形成と地域貢献をめざします。
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