土屋謙仕
長野保健医療大学
保健科学部 リハビリテーション学科 准教授
認知神経科学/リハビリテーション科学
長野保健医療大学
保健科学部 リハビリテーション学科 准教授
認知神経科学/リハビリテーション科学
脳内で血管が詰まる・破れることで心身機能に障害が生じる脳卒中。血管が詰まる「脳梗塞」や、血管が破れる「脳出血」、「くも膜下出血」など症状で病名が変わると同時に、発生した脳内の箇所によって体の動きや言語の発声、視覚、思考など多様な障害が出てしまう。
当然ながら日常生活に困難が生じるケースが多く、そんな人たちの社会生活や就業の支援を行うのが作業療法士の役割だ。作業療法士は身体障害や精神障害、認知症、発達障害などを抱える多様な人を支援対象とするが、長野保健医療大学保健科学部リハビリテーション学科の土屋謙仕准教授は大学卒業後、作業療法士として10年超にわたり、脳卒中患者を中心に数多くのリハビリテーションに取り組んできた。
「リハビリを行うなかで、『このやり方で正しいのか、成果が出せるのか』と悩むことがあり、そこで科学的な確証を得るために学術論文に目を通す機会が増えました。作業療法では常に知識や手法をアップデートすることが大切で、臨床現場に出てから改めて学び続ける重要性に気づいたのです」
その後、働きながら大学院に進学した土屋准教授。研究と向き合うなかで、「臨床現場で対象者と向き合う作業療法士のためにも、多様な研究成果を現場に還元して作業療法の進化および対象者のより良い生活に貢献していきたい」という想いを強くし、研究者としての道を歩むことになった。
脳内のオキシヘモグロビンを計測して脳機能を計測する
脳卒中では運動機能だけでなく、精神機能に障害を生じるケースも少なくない。土屋准教授が研究する「抑うつ状態」も、脳卒中患者の3~4人に1人が発症するという。
抑うつ状態では日々の行動意欲が低下してしまい、結果としてリハビリテーション効果が減少してしまう。これまで臨床現場で体験的に語られてきた事象について、「脳卒中後抑うつ状態(PSD)とADL改善」というテーマで研究することで、土屋准教授は科学的なエビデンスの確立に挑んだ。
研究では麻痺重症度、リハビリ時間、入院日数が同程度で抑うつ状態の有無が異なる患者を対象として、日常生活動作能力の評価を実施。入院時と退院時の日常生活動作能力の改善を比較することで、抑うつ状態の有無が改善の度合いに影響を与えることを科学的に証明してみせた。この他、認知症を有する患者に対して病院内におけるデイケアが生活改善にどのような効果を与えるかなど、これまで現場で行われてきた取り組みに科学的な検証データを付与する研究に、土屋准教授は精力的に取り組む。
「臨床現場には、体験的に効果があるとされてきた手法が存在します。しかし介入によりどのような効果が得られるのか、どんな違いが出るのか、といった科学的な検証が乏しい点もありました。そこで私のような研究者がエビデンスを確立すれば、リハビリの効果を高めるだけでなく、作業療法士が確信をもって対象者に介入できる環境が生まれます。リハビリ対象者さんと日々向き合う作業療法士が安心して業務に取り組める環境づくりと対象者の生活のより良い改善が、私が研究と向き合うモチベーションのひとつです」
「作業療法の介入手法に科学的なエビデンスを確立することに加えて、大学では新たな知見を見出す研究にも取り組んでいます。こういった新しい知見の探求を、作業療法士が日々のリハビリ業務と両立するのは難しい。その役割を担うことが、作業療法に貢献する研究者の使命です。これらの知見を引き継ぎ、次世代の作業療法士を育成することも臨床現場への大きな貢献につながるでしょう」
土屋准教授は、作業療法士として働いてきた経験を活かして「音楽が脳活動に与える影響」、「掃除機かけが認知機能に与える影響」、「オンラインを活用した遠隔リハビリテーションの作業療法の応用」といった多様な研究に取り組んでいる。そして、現在も週1回、作業療法士として臨床現場でのリハビリ業務に励んでいるという。あくまで研究の軸足は臨床現場に置きながら、その視線は科学的な検証を活用したさらなる作業療法の進化に向けられている。
抑うつ状態の有無によってリハビリによる日常動作の改善にどのような差異が出るかを科学的に検証したデータ
「臨床で求められる思考を得るだけでなく、論文を読む力を習得するためにも、作業療法士の教育では研究活動が大切」と土屋准教授は語る
掃除機かけが身体活動量だけでなく認知機能維持にも効果があることを実験により証明した
長野保健医療大学では専門的な知識・技術に加えて、医療従事者に求められる倫理観、社会人としての教養や責任感、医療現場で不可欠なコミュニケーション能力の育成を重視。実際の医療活動を体験する専門職連携教育と実習を通じて、地域医療に貢献できる医療人材となるための力を4年間で身につけます。学生サポート体制も充実しており、保健科学部では学年ごとのクラス担任を、看護学部では学生ごとに専任教員が担当者となるアドバイザー制度を設置しています。
保健科学部リハビリテーション学科には理学療法学専攻と作業療法学専攻の2つの専攻を設置しています。理学療法学専攻では身体機能の回復・改善をめざした運動療法や物理療法を学び、臨床に強い理学療法士を育成します。作業療法学専攻では実社会への対応力を回復させるための多様な作業活動を学び、幅広い場所で活躍できる作業療法士を育成します。看護学部看護学科では「地域で学び、地域を学ぶ」ことを特色として、1年次から地域住民と関わりながら、看護の知識とスキル、人々の健康生活を支えるための人間力を培っていきます。
■保健科学部:リハビリテーション学科[理学療法学専攻/作業療法学専攻] ■看護学部:看護学科
相澤病院、国立信州上田医療センター、佐久総合病院、篠ノ井総合病院、信州大学附属病院、諏訪赤十字病院、長野赤十字病院、長野中央病院、鹿教湯三才山リハビリテーションセンター、伊那中央病院、上伊那生協病院、県立木曽病院、国立中信まつもと医療センター、佐久市立国保浅間総合病院、信濃医療福祉センター、諏訪共立病院、千曲中央病院、長野市民病院、長野松代総合病院、北信総合病院、松本協立病院、松本市立病院、須坂市役所(保健師)、長野市役所(保健師) ほか
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