Professor

山根伸吾

令和健康科学大学

リハビリテーション学部 作業療法学科 教授
作業療法学/作業科学

機能回復だけでないリハビリテーション
本来の概念を多くの人に理解して欲しい

「学問」として考える作業療法
臨床での実践から生まれる
新たな知見

 作業療法士は、医療技術者なのだろうか。それとも研究者なのだろうか。臨床の現場にあり、目の前の患者をどう救うかということに取り組むと考えれば医療技術者だが、新たな学術的知見や方法を見出そうと努めている面では研究者だといえる。つまり、作業療法士は、臨床と学術、実践と研究の両面を持つ職業だといえる。

 作業療法士と比較されがちな理学療法士は、イメージがつかみやすい。温熱療法を施したり、ストレッチや運動で関節の可動域を広げたりするなど、インプットとアウトプットの関係が明確だ。

「作業とは、患者が日常生活でなにげなく行ってきたさまざまな活動のことです。その作業を行うことが、何らかの機能障害により、困難になった方を対象として、作業ができるようにサポートするのが作業療法士の役割です。どの作業を優先して回復を目指していくかを判断するには、患者との親密なコミュニケーションが不可欠です」

 令和健康科学大学の山根伸吾教授の主な研究テーマは、高齢者や脳血管障害・頭部外傷などによる高次脳機能障害を対象にした作業療法学だ。患者のQOL(生活の質)向上を目指した、多方面からのアプローチを研究する。例えば、訪問リハビリテーションや認知機能改善のための個別化されたリハビリテーションプログラムの効果を検証し、実践に応用する。また、患者の社会復帰を支援するための包括的なリハビリテーション計画や学生などの実習プログラムも研究対象だ。それらの研究成果は、リハビリテーションの現場において即実践可能な方法論を提供するものでもある。

対象者が本当に必要な機能回復を
探り、寄り添うのが作業療法士

身体面だけでなく社会的側面からも
機能回復を目指すことが求められる

 食事を摂る、トイレに行く、着替えるなど、日常生活に必要な動作は数多い。だが、リハビリテーションで重要なのはこれら個々の動作を回復させることだけではない。

「たとえば家事の一切を担っていた母親が脳梗塞で倒れ、リハビリを受けて回復を目指すとします。火を使う料理は難しいとしても、掃除や洗濯はできるようになりたい。これは身体的な機能回復の問題だけではなくて、QOL、ひいては個人の尊厳にかかわる問題です」

 入院して作業療法士と共にリハビリに取り組んでいた患者が、多少なりとも身の回りの作業が可能になり、さあ退院......というときに、はたと「これから家に帰って、何ができるだろう。何をすればいいのだろう」と気がつく。倒れる前は何の気なしに行っていた日常の作業が困難になると、家庭生活のなかで担っていた役割を果たせなくなってしまう。これは患者にとって、非常に深刻な危機になり得るのだ。

 生活のなかで重要な作業とは何なのかは、患者によってまったく異なるのも事実である。家族や家庭、職場や学校など、さまざまな社会との関係性のなかで、患者がやらなければいけないこと、患者が期待されていることは千差万別だ。

 身体機能の回復を促すためには、解剖学や運動療法の知識は欠かせない。だがその一方で、患者が本当に必要とする回復とは何なのかを探り当てるためには、深い人生経験と患者と伴走し続ける粘り強さが必要だ。

「リハビリテーションの概念をもっとも体現しているのが、作業療法だと思っています。リハビリとは、歩行訓練や運動をすることではない。障害を受けた患者さんが、もともと持っていた権利を再度獲得して、その人なりの社会復帰を果たすことです。身体機能だけではなく、社会的な機能回復を目指していく。そのプロセスに寄り添うことができるのは、作業療法士だけです」

対象者自身にリハビリの概念を改めて
理解してもらうための調査を推進

 そこで山根教授が近年力を入れて取り組んでいるのは、デイサービスの利用者を対象とした、リハビリテーションに関するイメージ調査だ。高齢者が自立生活の支援を受けながら、可能な限り住み慣れた地域で自分らしい生活を送ることを目指す地域包括ケアシステムにおいて、デイサービスは大きな役割を果たしている。

 しかし多くのデイサービスでは、理学療法士や作業療法士といったリハビリテーション専門職が常勤していないため、リハビリの概念や意義が十分に伝わっていない状況にある。そのため利用者の大半はリハビリテーション=身体機能の訓練という一般的なイメージを持ってしまいがちになっているのだ。

「リハビリテーション専門職の中でも特に作業療法士は、利用者には本来リハビリテーションが意図する生活上の訓練や、環境調整を含めた包括的なアプローチに目を向けて欲しいと考えているのですが、利用者の多くが身体機能の訓練にニーズを感じている以上、施設側もそのニーズに応えざるを得ないというのが現状です。そこで私は現在、利用者の方にインタビューを実施し、リハビリテーションに対するイメージと、そう思うようになったきっかけについて調査しています。この調査を通して、利用者のみなさんにリハビリテーションの概念を改めて知っていただき、自分に必要なリハビリテーションを広い観点から見てもらえるようになればいいなと考えています」

令和健康科学大学

技術・知識・愛。3つの能力を修得した医療専門職を育成

2022年4月に福岡県福岡市に開学した令和健康科学大学は、看護・リハビリを通して「人間の健康」を科学的に教育し、研究する4年制大学です。建学の精神には「手には技術、頭には知識、患者様には愛を」を定めています。高度医療の提供と先進医療の導入を図りつつ、卓越した技術・技能を修得すること。地域医療の質の向上とともに各専門領域を深化させるための知識を修得すること。そして、高い職業倫理をもって患者様に寄り添う豊かな人間性を修得すること。これら3つの能力を総合的に身につけた医療専門職の人材を育成します。

最先端の施設・設備と現代のニーズに即したカリキュラム

医療現場を再現したような教室や、最新の医療機器がそろう施設など、進化し続ける医療業界に見合った環境を整えているのは、新設校ならではの魅力です。また、チーム医療の中核を担う人材を育成する専門職連携教育(IPE)やICT教育など、現代のニーズに即した高い専門性と柔軟性を育成するカリキュラムを整備。全国27の系列病院と7つの専門学校を運営する「巨樹の会」のネットワークも、病院実習から就職・卒業後のキャリアアップまで手厚く支えます。

学部学科

■看護学部:看護学科 ■リハビリテーション学部:理学療法学科/作業療法学科

取得可能資格

看護師国家試験受験資格、理学療法士国家試験受験資格、作業療法士国家試験受験資格

将来の進路イメージ

医療機関(総合病院、一般病院、リハビリテーション病院、整形外科・精神科・神経科病院など)、老人保健施設、デイケア・デイサービス、訪問看護・リハビリ、特別養護老人ホーム、肢体不自由児施設、行政・研究機関、スポーツ機関(プロスポーツ団体など)、福祉施設(授産所・作業所) ほか

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