宮本祐介
福井工業大学
工学部 電気電子情報工学科 教授
電波天文学
福井工業大学
工学部 電気電子情報工学科 教授
電波天文学
私達の頭上に果てしなく広がる宇宙は、数千億もの星などが集まった銀河で構成されている。ではその銀河はどのように誕生したのか。起源を解明する鍵を握るのが、星の原料となる原子・分子ガスや宇宙塵といった星間物質だ。長らく国立天文台で研究活動に取り組み、銀河における分子ガスをはじめ星間物質の観測的研究を手掛けてきた福井工業大学工学部電気電子情報工学科の宮本祐介教授はいま、私達が暮らす地球が属する天の川銀河の観測を通して、いまだ謎の多い銀河の正体を突き止めるべく研究を進めている。
「星は分子ガスから誕生しますが、その前段階として原子ガスから分子ガスが生成される過程が明らかにされていません。間接的な観測の結果から天の川銀河にはそれら2つの相のガスをつなぐ低密度分子ガスが、我々が想像していた以上に広範囲に広がっていることがわかってきました。最も身近な天の川銀河でも探求が進んでいない“未知の領域”が膨大に存在しています」
宮本教授が研究ターゲットにする天の川銀河の大きさは直径10万光年以上とされる。その詳細を観測するのが、天体から届く電波を検出する電波望遠鏡だ。これは、光学望遠鏡では見えない、宇宙空間に漂う非常に冷たいガスから放射される微弱な信号を高感度に受信することができる装置である。
「研究ではOHという分子をターゲットにしていますが、発せられる信号が非常に弱いため検出には膨大な時間がかかるといった障壁があります。さらに、私達が活用する1GHz帯(1.4GHz~1.6GHz)という周波数帯は携帯などの通信電波の干渉を受けてしまうという課題もあります」
天の川銀河における“未知の領域”を低周波数帯で観測できる環境は、日本国内では限られている。加えて、高感度な電波天文観測を実現するため、大型のパラボラアンテナを整備することは簡単ではない。しかしそれを可能にしたのが、宇宙研究を推進する福井工業大学ならではの研究環境である。
宮本教授が整備を進めている10m電波望遠鏡(左)
福井工業大学のあわらキャンパスに設置された高性能衛星地上局には、今年新たに完成したものを含めて、4つのパラボラアンテナが存在する。3つは衛星通信運用に活用されるが、そのうちの1つ、口径10mアンテナを宮本教授たちは電波望遠鏡に改修している。国内では希少な観測装置を搭載するため、観測システムの開発から研究チームで手掛けるプロジェクトだ。
「国内では低周波数帯が観測できる装置はあまり多くありませんが、世界では、3000kmの範囲に数1000基のアンテナを配置し観測する国際プロジェクト『スクエア・キロメートル・アレイ』など、低周波数帯での観測が進んでいます。また『東アジアVLBI観測網』という日本や中国、韓国が共同で観測を行う研究でも低周波数帯が使用されており、そういった国際的プロジェクトにも将来的に参画することができたらと考えています」
天文学の分野では、宇宙から届く微弱な信号を扱うため、巨大なパラボラアンテナなど大規模な観測装置が必要とされるが、自前で整備することは難しいため、国内外の観測所が持つ装置を用いて観測し、研究を進めることが多いという。観測所の装置を用いるには観測提案書を提出し、世界中の研究者の中から観測時間を勝ち取る必要がある。このような共同利用装置は観測者が期待するデータを効率的に取得できる一方、時間がかかる観測やチャレンジングな観測研究の実施は難しい。そんな中で、宮本教授が整備を進める電波望遠鏡は、銀河に秘められた“未知の領域”に挑むという目標に向けた大きな推進力となるだろう。
また学内に高精度電波望遠鏡を有することは、研究面ではもちろん、学生の教育にも大きな価値があると宮本教授は語る。
「私自身も学生時代に観測装置の開発を手掛けた経験が大きな糧になっています。天文学に取り組むうえでも、将来につながる工学的な技術を学ぶうえでも、ハードウェアとしての望遠鏡の整備、開発、そして運用管理に関われるのは貴重なこと。ハードウェア、ソフトウェア、そして近年ではAIやデータサイエンスの活用など、天文学は多様な分野に興味を持ち、知識を連動させることが大切。学生にはこの研究環境を活用して、多くの経験を得てもらいたいです」
電波望遠鏡が完成すれば、宮本教授の天の川銀河の観測はいよいよ次のステージへと突入する。その舞台に学生の手による新たな発見が誕生すること、次世代の天文学を担う研究者の卵が登場することを期待したい。
うみえび座にある棒渦巻銀河M83。観測する電磁波の波長によって得られる情報が変わってくる
ちょうこくしつ座にある棒渦巻銀河NGC613。銀河中心領域には大量の分子ガスがあり、その奥深くに超巨大ブラックホールが存在する
南米チリの高地に建設されている計66台の電波望遠鏡が結合するアルマ望遠鏡。宮本教授は国立天文台所属時に同プロジェクトを担当した
福井工業大学は、4学部8学科で編成され、「次世代型工科系総合大学」として、文理融合の学びを展開しています。これからの国際化社会や情報化社会に相応しい人材の育成に取り組み“2050年”を見据えた社会、そして“未来”を創っています。
福井工業大学あわらキャンパスには、北陸最大規模のパラボラアンテナがあります。FUTではこの設備を活用して、2003年から本格的に衛星データ利用に関する研究を行ってきました。加えて2019年には、Society5.0の基盤となるデータ駆動型社会の到来を見据え、「AI&IoTセンター」を設立。これにより「宇宙×AI」による新しい価値の創造に取り組む準備が整いました。そしてこの事業を発展的に継承する取り組みとして、2020年度より「ふくいPHOENIXハイパープロジェクト」がスタート。JAXAとの共同研究により、月周回軌道衛星との通信を可能とする高性能な口径13.5mパラボラアンテナ、地球周回衛星との通信を可能とする口径3.9mのパラボラアンテナを新たに整備し、2024年「あわら宇宙センター」の設立により、FUTの宇宙研究はさらなる広がりをみせています。
■工学部:電気電子情報工学科/機械工学科/建築土木工学科/原子力技術応用工学科 ■環境学部:環境食品応用化学科/デザイン学科 ■経営情報学部:経営情報学科 ■スポーツ健康科学部:スポーツ健康科学科
北陸電気工事、西日本旅客鉄道、九州旅客鉄道、東京電力ホールディングス、熊谷組、カシオ計算機、日産自動車、本田技研工業、五洋建設、クスリのアオキ、酒井化学工業、セーレン、石友ホームグループ、セイコーエプソン、東亞合成、リゾートトラスト、アクアテック、大東建託、三谷セキサン、日本ダム、タマホーム、警視庁、福井県警察本部、神奈川県警察、今村証券、神戸信用金庫、福井信用金庫、能美市役所、黒部市役所、自衛隊 ほか
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