丸山充
神奈川工科大学
情報学部 情報ネットワーク・コミュニケーション学科 教授
高速大容量データ通信処理技術
神奈川工科大学
情報学部 情報ネットワーク・コミュニケーション学科 教授
高速大容量データ通信処理技術
映像は「8K」の時代に突入する──。「8K」とは、現在普及する「4K」の4倍、ハイビジョンの16倍にあたる7,680×4,320ピクセルの空間解像度をもつ映像で、目の前で見るとまるでリアルな現場に立っているような臨場感があるという。
この超高精細映像を放送用コンテンツとして利用するためのネットワークインフラを開発しているのが、神奈川工科大学情報学部情報ネットワーク・コミュニケーション学科の丸山充教授だ。
「8K技術を使えば、サッカー場全体を遠隔から撮影した映像でも選手やボールの動きが細かく見えて、臨場感は抜群です。しかし、これをリアルタイムで放送しようとすると従来の回線とはケタ違いの高速性が必要なので、データを圧縮する必要があります。そこで私は、これを非圧縮のまま伝送できるネットワーク構築に挑んでいます」
8K映像を非圧縮のまま伝送しようとすると毎秒48ギガビット(Gbps)の速度が必要になる。これは、DVDのディスク1枚分のデータを0.8秒で伝送できる速度に匹敵する。そのため、毎秒80メガビット(Mbps)程度まで圧縮して伝送するのが現実的だ。しかし、8K映像を放送用コンテンツとして使うとなるとコメントのテロップを入れたり、CG 処理を組み合わせたりする編集作業が必要になる。これは圧縮した状態ではできない。そこで丸山教授は、8K映像をクラウドを用いて非圧縮のまま、自在に編集処理できるプラットフォームを開発している。
「例えば、サッカーの試合中に過去の映像と並べて比較しながら状況解説ができたら、わかりやすいですよね。こうしたリアルタイム編集を8Kコンテンツでも実現しようというのが私たちの目標です。8K映像は、撮影や編集をする機材が高価だという課題もあります。そこで、クラウドサービスで制作環境を提供できれば、誰でも気軽に8K映像を扱えるようになり、新しい利用方法も増えるのではないかと考えています」
8K映像の実験に用いる「マルチレーンストリーム伝送技術」では、細かく分割されたデータ群の表示タイミングを合わせる「同期処理」が重要な役割を果たしている
丸山教授が手がける8K超高精細映像処理技術の研究では、大きく分けて2つの技術的アプローチをしている。1つは「映像処理プラットフォーム技術」、もう1つが「ネットワーク・クラウド制御コア技術」となる。ここで深く踏み込むことはしないが、実験では情報ネットワークとクラウド環境を連携した高度な技術が求められる。
丸山教授は、1985年にNTTに入社し、研究所で高速ネットワークのさまざまな規格の開発に携わってきた。例えば、今や一般的になったVOD(Video On Demand)用の高速ネットワーク処理技術は丸山教授の研究チームが手がけたものだという。当時、扱っていたのは、毎秒100メガビット(Mbps)の回線。世紀をまたいだ現在は、その1000倍にあたる毎秒100ギガビット(Gbps)の回線を使って、世界最先端の実験に挑戦している。あまり知られていないが、日本には100 Gbpsの広帯域ネットワークが全国に張り巡らされている。これらは国の研究機関が運用するもので、学術用の研究に利用できるという。
「最近では、2019年2月のさっぽろ雪まつり期間中にNICT(国立研究開発法人 情報通信研究機構)の100Gbps回線を使って、8K映像配信実験を実施しました。ここで複数の8Kカメラのライブ映像を無劣化のまま、ネットワーク上で途切れなく切り替えの処理をしながら、伝送・表示を行うことに成功しました。札幌~東京~大阪を100Gbpsのネットワークでつないだこの実験は、世界に先駆けた成功事例といえるでしょう」
丸山教授の次の目標は、100Gbpsを上回る400Gbpsの高速通信ネットワーク網を構築し、8K映像を自在に操るプラットフォームをつくること。それをメイド・イン・ジャパンで実現するという夢もある。
東京五輪、大阪万博など国際的なイベントが待っている。神奈川工科大学発の世界最先端ネットワーク技術が、8K映像の新たな市場を切り拓いていく!
映像業界で用いるインターフェース。左が2芯シングルモード光ケーブル、右がシリアルデジタルインターフェース(SDI)。今後は光ケーブルが主流で、SDI数百本の伝送量を光ケーブル1本で担うことができるという
2019年の「さっぽろ雪まつり」の様子を8K映像でリアルタイム放映したときの画像。毎秒100ギガビット(Gbps)の回線で札幌~東京~大阪をつないだ
8Kディスプレイを含む最先端のネットワーク機器が並ぶ丸山研究室。企業勤務時代の大きな課題だったネットワーク技術者の人材不足を解決するため、後進の育成をミッションと考えている
神奈川工科大学の教育の特徴は、さまざまな能力の育成に力を入れ実践していることです。具体的には、PBL(Project-Based Learning)教育を早くから取り入れ、社会で活躍する上で必要となる能力をより効果的に身につけることができる「ユニットプログラム」を実施。従来の1科目の時間の2~4倍を充てています。
開学以来重視している卒業研究によって、身につけてきた能力に磨きをかけることで、「このように考えることができるようになった」、あるいは「このように対応することができるようになった」と皆さんも実感できることでしょう。神奈川工科大学は、学生が社会で活躍する人材に成長していくことをめざします。
■ 工学部:機械工学科(航空宇宙学専攻含む)/電気電子情報工学科/応用化学科 ■ 創造工学部:自動車システム開発工学科/ロボット・メカトロニクス学科/ホームエレクトロニクス開発学科 ■ 応用バイオ科学部:応用バイオ科学科(応用バイオコース/生命科学コース) ■ 情報学部:情報工学科/情報ネットワーク・コミュニケーション学科/情報メディア学科 ■ 健康医療科学部※1:看護学科/管理栄養学科※2/臨床工学科
※1 2020年度に新学部への再編を構想中
※2 栄養生命科学科は管理栄養学科に名称変更予定
アルファシステムズ※、NSD※、小田急電鉄、鹿島建設、カプコン、関電工※、協和エクシオ、JVCケンウッド※、ソフトバンク、中外製薬、チロルチョコ、東海旅客鉄道、東芝、東芝プラント※、東プレ、日産自動車※、日本製粉、バンダイナムコスタジオ、東日本旅客鉄道、ファンケルグループ、富士通、ホーチキ、本田技研工業、マツダ、マルハニチロ、ヤマハ発動機 ほか(※2019年3月卒業生)
〒243-0292 神奈川県厚木市下荻野1030
企画入学課 TEL:046-291-3002