Professor

竹原幸生

近畿大学

理工学部 社会環境工学科 教授
流体力学/水理学

1億分の1秒を捉えるカメラで
「飛ぶ光」の撮影に成功

この世で最速の光を撮影
超高速現象の研究に応用

 右ページ上に掲載の、暗闇の中を斜めに切り裂く光線の静止映像。これは2017年、近畿大学理工学部の竹原幸生教授らが開発した「超高速高感度カメラ」が「飛ぶ光」を捉えた写真だ。光の速度はこの世で最も速い秒速30万km。1秒で地球を7周半もする速さの光を静止画で捉えた竹原教授らの成果は、新聞の科学面など多くのメディアで報じられた。

「実験では、レーザーのパルス光を照射し、10メートル弱の部屋の両端の壁にとりつけた鏡で反射させました。数メートルの『光の帯』が飛ぶ瞬間をイメージセンサーを用いたカメラで撮影できたのは、我々が世界で初めてです」

 竹原教授らが開発したカメラの分解能は「1億分の1秒」。1秒を1億に分割した瞬間を10コマ連続で撮影できる。

「自然界にはこれまで観察することができなかった、超高速で起きている現象が沢山あります。例えば、核物理学における粒子と粒子をぶつけたときの反応や、細胞内のシグナル反応なども、このカメラを用いれば撮影できる可能性があります」

異分野の研究から
高速カメラの開発へ

 竹原教授の専門は土木工学。もともとは大気と海洋の間で起こっている二酸化炭素などの物質の交換現象を研究していた。

「約30年前、その研究のために海洋表面を当時のアナログビデオカメラで撮影したのですが、毎秒20数コマでは遅すぎて何が起きているかまったくわかりませんでした。そこで同じく近畿大学理工学部で河川計画、水資源等を研究していた江藤剛治教授をリーダーに、超高速デジタルビデオカメラの開発を進めることになったのです」

 まったく土木工学とは畑違いの研究分野だったが、江藤教授らは電気工学や半導体工学等の撮像素子の開発に必要な知識と技術を学びながら、世界のどこにもなかったカメラの開発を進めていった。その研究は短期間で目覚ましい成果を挙げた。1991年には当時の世界最高速、4500分の1秒のカメラの開発に成功。このカメラでは時速200キロで走る新幹線の中にいる人の表情や、飛んでいるトンボの羽の模様をくっきり撮影することができ、NHKのテレビ番組で特集も組まれた。

「当初は『これぐらい速ければ十分だろう』と考えたのですが、高速現象を扱うさまざまな研究者にアンケートを行ったところ、『さらに速いカメラをぜひ開発してほしい』という要望が多数寄せられたのです」

 さらなる高速化を決意した江藤教授らは、2001年に島津製作所との共同研究で100万分の1秒のカメラを開発。このカメラは、世界中の自動車メーカーに納入され、衝突実験による安全性の向上、エンジン開発にともなう燃費向上、排ガスの浄化などに活用された。

産学連携数トップの近畿大学で
自由な研究に挑んでほしい

世界中の研究機関・企業のなかでも
トップグループに位置

 2004年には映像のカラー化にも成功。色がつくことで映像の情報量が増え、流体を撮影した際の温度変化も測定できるようになった。2011年には1600万分の1秒、2013年には4000万分の1秒と高速化はさらに進み、ついに2017年に1億分の1秒を達成した。近畿大学で江藤教授・竹原教授らがこれまで進めてきた高速カメラの研究は、世界中の研究機関・企業のなかでもトップグループに位置する。

「世界には、特殊な装置を用いて光の飛翔を捉えた研究グループもありますが、イメージセンサを用いる我々のカメラは、通常のビデオカメラのようにどこにでも持ち運びができ、高度な技術を持たない人でも撮影をすることができます。応用範囲は非常に広く、いまの私たちが予想もつかないような用途や研究に活用されるはずです」

 竹原教授は土木工学出身の自分が、高速カメラの開発に邁進できたのは「近畿大学だからです」と語る。

「ほかの大学だったら『土木なのになぜ?』と横槍が入っていた可能性は大いにあります。研究者が自由にやりたい研究に没頭できる環境が近畿大学にはありますね」

 竹原教授は「カメラの開発ではさまざまな企業と共同研究を行ってきましたが、実は全国の大学のなかで近畿大学はトップレベルの産学連携数を誇っているんです」とも語った。近畿大学理工学部のある東大阪市は中小企業の工場が密集していることから、数々の共同研究の依頼が舞い込むのだという。将来、自分の研究を社会の役に立てたいと思う理系学生にとって、近畿大学理工学部はまたとない経験を得られる場となっている。

1億枚/1秒で撮影した、パルスレーザーが室内の鏡に反射しながら飛翔する映像。数メートルのレーザー光線がはっきりと撮影されている。CCD(イメージセンサ)を用いたカメラで光の飛翔の撮影に成功したのは竹原教授らが世界初

Rushtonタービン内の流れを竹原教授が開発した画像解析流速計測法を用いて計測した結果。ある瞬間の流速ベクトルが約9200個得られている。非常に空間解像度の高い計測が可能

ミルク一滴を垂らすとミルククラウンができるが、水滴一滴をエタノール薄膜上に垂らすとバスケットクラウンが生じる

近畿大学

医学から芸術まであらゆる分野を網羅する日本屈指の総合大学

近畿大学は14学部を擁する、医学から芸術まで多様な学問分野をそろえた総合大学であると共に、大学院、通信教育部、医学部病院、研究所の他、二つの短期大学、高等専門学校、看護専門学校、高等学校、中学校、小学校、幼稚園を擁する一大教育機関です。学園全体の学生数は53,000人を超えています。

東大阪キャンパスに「ACADEMIC THEATER」がオープン!

2017年4月、東大阪キャンパスに「ACADEMIC THEATER」がオープンしました。スマホで予約できる24時間利用可能な自習室や、マンガ2万2千冊を含む全く新しいコンセプトの図書スペースが併設されています。アカデミックシアターは、文系・理系の垣根を越えて社会問題を解決に導く拠点として、実学教育の発信の場となっています。

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主な就職実績(理工学部情報学科)

旭化成、西日本電信電話、関西電力、近畿日本鉄道、ダイハツ工業、オムロン、タカラスタンダード、東京電力ホールディングス、環境省、近畿大学大学院 ほか

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