高野 敦
神奈川大学
工学部 機械工学科 教授
航空宇宙工学/構造力学/複合材料
神奈川大学
工学部 機械工学科 教授
航空宇宙工学/構造力学/複合材料
宇宙がますます身近になっている。ロケット開発を手がける民間企業が増え、民間人の宇宙旅行もそう遠くない未来に実現されそうな気配が漂っている。そんな背景もあり、近年、多くの大学で小型人工衛星の開発が盛んに行われている。この研究には、大きな課題がある。それは、どうやって宇宙空間に打ち上げるか……。現状、JAXA(宇宙航空研究開発機構)などが打ち上げる人工衛星用の大型ロケットに相乗りさせてもらうのが一般的だ。ただ、これだとどうしても打ち上げ回数は限られる。ならば、自分で超小型ロケットをつくってしまおう―。そんな型破りな夢を実現しようとしている研究者がいる。神奈川大学工学部機械工学科の高野敦教授だ。
「超小型衛星専用の超小型ロケットを開発しています。エンジンに固形燃料と液体酸化剤を用いたハイブリッドロケットです。機体の設計から、エンジンの開発、燃料の研究まで、すべて学内の研究チームで行います。とにかく実際に形にして、飛ばしてみて、失敗を繰り返しながら、データを積み上げているところです。これは、私が担当する研究室と神奈川大学ロケット部の共同プロジェクトです」
専門は、構造力学と材料力学。宇宙機に用いる材料や機体の設計が得意分野だという。もともとは民間企業で人工衛星の構造設計を15年間担当してきた実績を持つ。まさに、宇宙開発の現場のプロである。
高野教授が主に研究しているのは、ロケットや人工衛星に用いられる薄型の構造材料の、「座屈(ざくつ)」と呼ばれる破損現象だ。この耳慣れない座屈とは何なのだろう?
2019年に打ち上げたロケットの概念図
「例えば、1本の針金を両端から引っ張っても、かなりの力を入れないと千切れません。逆に、両端から内側に押してみると、簡単に外側にたわんで変形します。これが座屈です。この現象は針金に限らず、薄い紙や板でも同様に起こります。当然、宇宙機に用いられる薄い板を曲面にした円筒殻も、圧縮の荷重で座屈してしまうことがあります。これまで多くの物理学者が座屈の理論を研究してきましたが、いまだに実際の実験結果とコンピュータの解析結果が合致しません。まだ理論が実際に追いついていない未知の領域なのです」
高野教授は、企業の現場で人工衛星の機構・構造設計に携わってきた。そこで取り組んできたのが、過去の実験データと座屈の理論を比較して、統計学的に安全な強度を導き出す「統計的強度評価」という研究だった。未知の領域ゆえに、コンピュータの解析だけでは答えは出ない。そこで、さまざまな材料を用いた実験を繰り返してきた。そして、研究現場を企業から大学に移した今、蓄積された知見を幅広く社会で活かすために、たどり着いたのが超小型ロケットの開発だった。
「これまでエンジンの燃焼実験や大規模なロケット発射実験など、数々のチャレンジを行ってきました。実験データを元にロケットの形状を進化させていく過程は、構造設計の醍醐味です。構造力学がわからなければ、機械の設計はできません。逆に構造力学がわかるとロケットや飛行機がなぜあの形なのか理解できます。どんなにかっこいいロケットのデザイン画を描けても、実現可能性がゼロでは意味がありません。力学的素養を活かして、最終的に“ものに形を与える”役割を担えるのは、構造設計のスペシャリストなのです」
大学時代、人力飛行機サークルを立ち上げ、「鳥人間コンテスト選手権大会」に出場した。そこで、構造設計の面白さに目覚め、大学院まで進んで研究に没頭した。その後、企業で数多くの人工衛星の構造設計を手がけた。そして今、新たな目標は、超小型ハイブリッドロケットを宇宙まで打ち上げること―。
「1回1000万円程度で打ち上げられる超小型ロケットがあれば、社会的なニーズは必ずあります。積み上げた構造力学、材料力学の知識を活用して、オンデマンドで使用できる次世代のロケットを実現したいですね」
2019年に打ち上げを予定していた全長4メートルのロケットのノーズとエンジン部分
秋田県能代市で行ったハイブリッドロケット発射実験の様子
神奈川大学ひらつかキャンパスで行ったエンジン燃焼実験の様子
緑一面のグラウンドから望む工学部棟
神奈川大学は、文系・理工系9学部を擁し、全都道府県から学生が集う総合大学です。キャンパス内には、最先端の装置をそろえた研究棟やハイテク・リサーチ・センター、個人利用ができるコンピュータ演習室、語学力を磨く「EnglishLounge」など、快適な学修環境が整います。2021年には新しい学び舎としてみなとみらいキャンパスが誕生。さらに整備を進め、2023年には理学部が横浜キャンパスに移転を予定しています。
2022年度試験においては12月19日(日)に全国22会場で試験を実施する「給費生制度」(採用者には4年間で最大880万円給付)をはじめ、入学前に経済的支援を約束する「神奈川大学予約型奨学金」などの大学独自の給付型奨学金制度が充実。さらに、少人数教育や入学直後から始まるキャリア教育などで、学生一人ひとりの成長を全力でサポート。詳細は大学公式サイトをご確認ください。
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