Professor

江玉睦明

新潟医療福祉大学

リハビリテーション学部 理学療法学科 教授
機能解剖学/スポーツ理学療法学

アキレス腱の「ねじれ構造」に注目し、
アスリートを悩ますケガの予防に挑む!

「FCバルセロナ」にも注目された
アキレス腱炎の解剖学的研究

 2018年10月、スペインの名門サッカーチーム「FCバルセロナ」が開催したカンファレンスで、アジア人研究者として初めて講演を行ったのが、新潟医療福祉大学リハビリテーション学部理学療法学科の江玉睦明教授だ。

「主力選手がケガで欠場すると、成績や集客に響き、莫大な損失につながります。そのため、FCバルセロナでは、ケガの予防に熱心に取り組んでおり、私の研究テーマのひとつ『アキレス腱炎の解剖学的研究』も注目されたと思われます。自分の研究が、トップアスリートのパフォーマンス向上にもつながるところに、やりがいを感じています」

 江玉教授がアキレス腱炎を研究テーマに選んだのは、以前、理学療法士として、国体に出場するサッカー選手たちのケアをしていた際に感じた問題意識に端を発している。

「サッカー選手には、アキレス腱炎など、腱にスポーツ障害が発生するケースが多く見られました。しかし、そうしたスポーツ障害、特に慢性障害の発生要因は、何ひとつ明らかになっていなかったのです」

 慢性のスポーツ障害は、小さなストレスが繰り返し加わることによって、微細損傷が起きて、障害が発生するとされてきた。ところが、それだけでは説明がつかないことが少なくない。

「実は、アキレス腱は人体で唯一、ねじれ構造のある組織なのです。私は、そのねじれが、障害発生に関係しているのではないかと考えました。そこで、数多くのご遺体を解剖させていただき、アキレス腱の構造を解明することにしました」

アキレス腱の力学的分析

神が創り出した「適度なねじれ」に
人体の神秘を感じた

 研究を重ねる中で、江玉教授は、不思議な現象を目の当たりにする。アキレス腱のねじれは、一人ひとり異なり、江玉教授は3タイプに分類した。ノーマルな中等度が約7割で、軽度が約2割、重度が約1割の割合である。

「障害の発生率は、軽度が最も低く、重度になるほど高くなると考えるのが普通でしょう。ところが、ヤング率やスティフネス(腱の硬さを表す指標)、ヒステリシス(腱のバネとしての性質)など、力学的特性を調べたところ、予想とは異なる結果が出ました。軽度、重度のねじれでは、いずれも、多様な方向に動かすと、歪みが生じて、障害が発生しやすくなります。それに対して、中等度のねじれでは、どの方向に動かしても、ストレスがかかりにくく、スムーズに振る舞ったのです。神は理に適ったねじれを創り出し、最も多くの人に与えたのではないか。人体の神秘を感じた瞬間でした」

 江玉教授の研究は、こうした構造を解明した段階で終わりではない。次のステージに入っている。力学的特性は、電気刺激やトレーニングなどによって改善可能である。中等度のねじれに近づけ、ケガを予防する方法を開発すること。そこに、理学療法士でもある江玉教授がこの研究に取り組む意義があると考えているという。

 現在は、解剖で得られた知見をベースに、シミュレーション、バイオメカニクス、発生学など、多様な観点から研究を進めている。発生学的分析では、妊娠中期の胎児の段階で、すでにアキレス腱のねじれ構造が見られ、3つの分類の割合も同じであることがわかった。

「骨が成長する時期にねじれ構造が決まるのであれば、幼児段階で改善できることもあると考えていたのですが、先天的なものだとわかりました。残念ですが、また異なる観点からアプローチを続けていくつもりです」

スポーツ庁からの委託を受けて
女性アスリート支援にも取り組む

 江玉教授はそのほか、スポーツ庁委託事業「女性アスリートの育成・支援プロジェクト」に選定された研究も進めている。月経周期におけるコンディション不良については、これまで心理面や疲労物質、体組成変化などに着目した研究が中心だった。江玉教授はそれらに加えて、運動器や中枢神経機能の変動からもアプローチ。新潟医療福祉大学が連携協定を結んでいるWEリーグ「アルビレックス新潟レディース」の選手などを対象に、月経周期に応じたトレーニング方法の開発にも取り組んでいる。江玉教授の挑戦は続く―。

FCバルセロナのカンファレンスに招かれた江玉教授

研究室には、超音波画像診断装置、バイオデックス(筋力測定器)、フットスキャン(足の3D形状を見る装置)など、さまざまな機器がそろっている

アキレス腱と膝蓋腱の比較。アキレス腱がねじれていることがわかる。人体でこうしたねじれ構造があるのは、アキレス腱だけである

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本学では、「優れたQOLサポーターを育成する大学」を基本理念にしています。その実現のために、「科学的知識と技術を活用する力」「チームワークとリーダーシップ」「対象者を支援する力」「問題を解決する力」「自己実現意欲」の5つの資質を高める教育を展開しています。

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主な就職実績

国立がんセンター、東京大学医学部附属病院、横浜市立大学附属病院、北里大学病院、昭和大学病院、日本大学医学部附属板橋病院、順天堂医院、新潟大学医歯学総合病院、新潟県立中央病院、あおやまメディカル、日本赤十字社長岡赤十字病院、新潟市民病院、信楽園病院、新潟県厚生農業協同組合連合会、メディカルセンター悠遊健康村病院、東北大学病院、つくばセントラル病院、信州大学医学部附属病院、長野厚生連北信総合病院、金沢大学附属病院、日本大学医学部附属板橋病院 日清医療食品、サトウ食品工業、ブルボン、ヘルシーフード、クスリのアオキ、ウエルシア薬局、日本義手足製造、富山県義肢製作所、セントラルスポーツ、井上眼科病院、その他学校教員、各市・町職員、各県警察本部、各消防局・本部、陸・海・空自衛隊 ほか

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