大澤直樹
金沢工業大学
工学部 電気電子工学科 教授
高電圧工学/放電応用
金沢工業大学
工学部 電気電子工学科 教授
高電圧工学/放電応用
「プラズマ」と聞いて、皆さんは何を思い浮かべるだろうか? 家電製品のキャッチフレーズやヒーローアニメの必殺技の名称などでもよく見かけるプラズマだが、その正体を知っている人は意外と少ない。
「プラズマとは、物質中の電子やイオンがバラバラになった状態で、固体、液体、気体に次ぐ、第4の状態と呼ばれています。私はこのプラズマを地球環境保全に役立てるためのさまざまな研究を行っています」
そう語るのは、金沢工業大学工学部電気電子工学科の大澤直樹教授だ。
プラズマは、オーロラやカミナリなど、自然界にも存在する放電現象として知られている。工学的な実験で再現することも可能で、例えば、高校の教室でも使われる「蛍光灯」は、プラズマを使った技術の代表格だ。
大澤教授の研究室では、放電やプラズマという現象を制御することで、水や空気を浄化する技術の開発に挑んでいるという。
「高エネルギーの放電・プラズマと反応させることで、有害物質や細菌を分解・除去することができます。この技術を応用して現在、コインランドリーの洗濯機をつくるメーカーと共同で、水資源を有効活用する研究を行っています。洗濯機の“すすぎ”や“脱水”工程で発生した水を浄化して“洗い”の工程で再利用できれば、使用する水量を大幅に削減できます」
この共同プロジェクトの背景には、大澤教授が手がけてきた数多くの研究テーマがある。
そのひとつが、「誘電体バリア放電」。これは、プラスチック材料の表面加工やオゾンの生成などに使われる技術だ。通常、放電によって発生するプラズマは、非常に高温になるのだが、誘電体バリア放電の場合、低温のプラズマを発生することができるという特長がある。これは、約150度以上の温度で分解されてしまうオゾンを生成するのに適しているという。このオゾンこそ抗菌・抗ウイルスの効果があることで、近年注目されている物質である。
「通常の誘導体バリア放電では、筋状の放電がランダムに発生しますが、私の研究室では、筋状の放電がない均一な誘導体バリア放電を発生させることに成功しました。これを酸素中で実現したのは世界初のことです。酸素中で均一な誘導体バリア放電を発生できると身体に有害な窒素酸化物(NOx)をほとんど出さずにオゾンを生成することが可能になります」
大澤教授の研究室では、誘導体バリア放電の研究で得た知見を用いて、少ない電力で大量のオゾンを生成する技術開発にも取り組んでいる。
そして、ここからさらに進んだ研究が、オゾンと「パルス放電」を組み合わせた水の浄化技術の開発だ。パルス放電とは、一定のリズムで放電を発生する仕組みと考えていいだろう。
「実験では、水中にオゾンを含む気泡を流し、そこにパルス放電を照射します。するとオゾンよりも強い殺菌力を持つヒドロキシラジカル(OHラジカル)という物質を生成できます。OHラジカルは、ダイオキシンなどの難分解性有機化合物も分解できます。こうした技術開発が、企業との共同研究につながっています」
自らも金沢工業大学工学部電気電子工学科で学んだ大澤教授は、大学院博士課程まで研究を続けた後、日立製作所に就職。電力・電機開発研究所での勤務を経て、2007年から金沢工業大学で研究者としての道を歩んでいる。
「放電・プラズマの魅力は、単純にその幻想的な光と圧倒的なパワーにあります。美しい半面、研究テーマとしては難解で、放電の専門知識だけでなく、熱力学、流体力学、化学反応など幅広い知識を身につけないと複雑な現象を理解できません。実験を繰り返し、探偵のように一歩ずつ真理に近づくのが、この研究の面白さではないでしょうか」
大澤教授の目標は、もちろん放電・プラズマの研究成果を産業応用することだ。水や空気の浄化だけでなく、半導体製造や農業の分野でも応用できる領域があるという。難解な印象の放電・プラズマの技術を誰もが気軽に利用できるようにするため、大澤教授の挑戦は続く。
誘電体バリア放電の高速度カメラでの撮影イメージ。左が通常の誘電体バリア放電、右が均一な誘電体バリア放電
放電処理空気混入パルス放電装置の設計図
研究室に設置されたガス分析装置。ほかにも専門的な分析機器がそろっている
扇が丘キャンパス。約6,300名の学部生・大学院生が学ぶ
単に専門知識を学ぶだけでなく、チームで問題発見・解決に取り組むプロジェクト型の授業「プロジェクトデザイン」が用意されています。また、身につけた知識の実践の場として、約50の学生プロジェクトが活動中。ものづくりの部活「夢考房プロジェクト」では、2022年のNHK学生ロボコンで準優勝したロボットプロジェクトなど、12のプロジェクトが活動しています。その他、SDGsや防災・減災、心理学などアカデミックなテーマに取り組む「学科プロジェクト」も。
企業が取り組む現実の課題に挑む「KITコーオプ教育プログラム」を2020年度から行っています。学生は4カ月~ 1年間の長期にわたって提携先の企業で働きながら、実社会での課題解決に挑みます。データサイエンスをテーマとするNTT 西日本、サイバーセキュリティをテーマとするNECグループとのプログラムなどがあります。
■ 工学部:機械工学科/航空システム工学科/ロボティクス学科/電気電子工学科(電気工学コース、電子工学コース)/情報工学科/環境土木工学科 ■ 情報フロンティア学部:メディア情報学科/経営情報学科/心理科学科 ■ 建築学部:建築学科(建築デザインコース、建築エンジニアリングコース) ■ バイオ・化学部:応用化学科/応用バイオ学科
大林組、鹿島建設、川崎重工業、関西電力、小松製作所、澁谷工業、清水建設、スズキ、SUBARU、住友林業、積水ハウス、ソフトバンク、大成建設、大和ハウス工業、タカラスタンダード、竹中工務店、東海旅客鉄道、東京電力ホールディングス、凸版印刷、西日本旅客鉄道、日産自動車、日本電気、日本電産、東日本旅客鉄道、富士通、北陸銀行、北陸電力、本田技研工業、三菱自動車工業、ヤフー、楽天グループ、YKK AP ほか
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