Professor

丸尾容子

東北工業大学

工学部 環境応用化学科 教授
ナノ材料化学/化学センサ

化学センサで「匂い」を可視化し
病気の診断や環境分析で役立てる

多孔質ガラスで「呼気」を分析
バイオマーカーとして役立てる

 化学の研究者の視点に立つと世の中のあらゆるものは化学記号で表すことができる。例えば、飲み物を入れるペットボトルも衣服の繊維も料理に使う調味料の粉末も詳しく調べれば、何らかの化学物質からできていることがわかるという。では「空気」はどうだろうか? 東北工業大学工学部環境応用化学科の丸尾容子教授の研究対象は、大気中に漂う「匂い」だ。

「私が注目しているのは呼気、つまりヒトが吐く息です。呼気は生体ガスの一種で、分析すると数百種類の化学物質が含まれていることがわかります。私は呼気を可視化して、バイオマーカーとして役立てる研究を行っています」

 バイオマーカーとは、疾患の有無や病状の変化の指標となる物質や数値的データのこと。細胞内の特定の蛋白質が増えると○△がんの可能性がある……といった診断等に使われるものだ。丸尾教授が挑むのは、空気中の化学物質を可視化すること。これを実現するために用いるのが、多孔質ガラスと呼ばれるナノ材料だ。

「多孔質ガラスは、ナノスケールの穴がたくさんあるガラスのことです。この表面に特殊な加工を施して、特定の化学物質を検出するための分析チップを開発しています。実験で使用するのは、8ミリ四方の正方形のチップです。このデコボコした微細なガラス片の表面積はなんとタタミ6畳分になります。そんなナノサイズの表面では、目に見えないさまざまな化学反応が起こっています。これはナノ材料化学と呼ばれる研究分野です」

 丸尾教授が検出ターゲットにした化学物質のひとつが、呼気に含まれるアセトンだ。これは、糖尿病のバイオマーカーとして注目されている。この研究によって、呼気に含まれるアセトンの濃度で糖尿病の診断ができるようになれば、血液検査より手軽に糖尿病予防のためのチェックができるようになると期待されている。

「多孔質ガラスの表面には、微量の化学物質を選択的に検出するためのさまざまな特長があります。また、分析チップが特定の化学物質を検出した際に変色させることもできます。これも大きな強みで、生体内の変化を可視化できることで、すぐに検査結果がわかります」

8ミリ四方の分析チップをさまざまな化学物質の検出に活用

ナノ材料の表面に無限の可能性
この技術を必ず社会実装する!

病気の診断だけでなく
環境分析にも応用できる

 丸尾教授の研究室では、アセトンのほか、一酸化窒素、二酸化窒素、ホルムアルデヒド、オゾンを検出できる分析チップの開発にも成功。バイオマーカーとして、生体ガスを検出するだけでなく、大気中のガスを検出して、環境分析に役立てる研究も進められている。

「多孔質ガラスを基板にした検出チップを実用化するには、ナノスケールの表面で何が起こっているかを理論的に説明する必要があります。特殊加工した多孔質ガラスになぜアセトンが吸着するのか、その他の物質はなぜ吸着しないのか、そこではどのような化学反応が起こっているのか……。目に見えない世界を化学の知見で可視化していくのがこの研究の面白さですね」

通信会社での研究職時代に
多孔質ガラスと出合う

 高校時代から化学に興味があったという丸尾教授は、大学で本格的に化学を学び、放射性物質の研究を大学院の修士課程まで続けた。そして、大学院修了後、大手通信会社に就職し、光通信に使用する新規材料の研究に携わる。ここで出合ったのが、多孔質ガラスだった。企業勤務を経て、大学教員になったのは2013年のこと。そこから、自らの研究に取り組みながら、若手研究者の育成にも力を入れている。

 生体ガスの分析は現在、世界的なトレンドで、尿中に含まれるホルムアルデヒドを検出して、アルツハイマー病の診断に役立てる研究などに注目が集まる。また、医師が薬を投与した際に、薬効や副作用を呼気から観察する研究なども進んでいるという。丸尾教授の研究室の例にもあるように、化学の知見を環境分析に応用する発展的な研究も行われている。

「ナノ材料の表面には、まだまだわからないことがたくさんあり、無限の可能性があります。私はナノ材料化学の専門家として、目に見えない現象を可視化して人々の健康管理や環境問題の解決に役立てたい。こうした技術を社会実装することが私の使命だと思っています」

アセトン検出チップのスペクトル分析の資料。「ナノスケールの現象を化学の知見を用いて理論的に説明することが重要」と丸尾教授

透過電子顕微鏡(TEM)で撮像した多孔質ガラスの表面。デコボコしている様子がわかる

研究室の学生と一緒に大学研究の展示会に参加。若手研究者の指導にも力を入れている

東北工業大学

社会の信頼に応え、持続可能な未来の東北を実現

東北工業大学は、建学の精神「わが国、特に東北地方の産業界で指導的役割を担う高度の技術者を養成する」に基づき、堅実で社会に有用な教育・研究を、半世紀以上にわたり真摯に実践してきました。近年は、持続可能な未来の東北を協創する「東北SDGs研究実践拠点」の形成、デジタル時代における「教育の高度化」と「AI 教育」に注力し、専門家として必要な素地、調和のとれた人格、優れた創造力と実行力を備えた人材の育成に取り組んでいます。

2022年秋、「ひろく学び、知をつなぐ」新実験・教育棟が竣工

八木山キャンパス内の建物整備の第1期として、2022年秋に実験・教育棟が竣工します。高度な工学研究・教育を実践すべく、人・活動・知のつながりを重視するコンセプトのもと、学部・学科を超えて新しい価値を創造する学びの拠点、また交流とコミュニケーションを生み出す「居場所」としての役割を果たします。

学部学科

■ 工学部:電気電子工学科/情報通信工学科/都市マネジメント学科/環境応用化学科 ■ 建築学部:建築学科 ■ ライフデザイン学部:産業デザイン学科/生活デザイン学科/経営コミュニケーション学科

主な就職実績(過去3年間)

アイリスオーヤマ、エクシオグループ、鹿島建設、関電工、きんでん、クリナップ、三機工業、清水建設、積水ハウス、セコム、綜合警備保障、大和ハウス工業、高砂熱学工業、タカラスタンダード、中央コンサルタンツ、東北電力、トヨタ自動車東日本、日本コムシス、日本電設工業、東日本高速道路、東日本旅客鉄道、前田建設工業、ミライト、ユアテック、警察庁東北管区警察局、国土交通省東北地方整備局、岩手県、宮城県、福島県、宮城県警察、仙台市消防局 ほか

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