児玉直樹
新潟医療福祉大学
医療技術学部 診療放射線学科 教授
診療放射線学/脳機能計測
新潟医療福祉大学
医療技術学部 診療放射線学科 教授
診療放射線学/脳機能計測
2015年1月、厚生労働省が策定した「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」において「2025年には、認知症患者が65歳以上の高齢者の約5人に1人に達する」との推計が公表され、大きな衝撃を与えた。いまや認知症対策は国家的な課題といえるが、約25年前にいち早く、その重要性を認識し、研究に取り組んできたのが新潟医療福祉大学の児玉直樹教授だ。
「大学院生のとき、神経内科クリニックで診療放射線技師として働いていました。多くの認知症患者のMRI画像に触れたのですが、大半がすでに脳の萎縮が進行しており、治療は難しい状態でした。当時は世間的に認知症への偏見が強かったため、『隠したい』という家族も多くいました。病状が進んでから来院する人が多かったのです。特効薬がなく、予防法も確立されていなかったため、病院に行っても意味がないと考える人もいたかもしれません。その状況を少しでも打開し、患者さんや家族を救いたい。その思いが、研究を進める上でのモチベーションになっています」
要介護状態を予防するために、児玉教授が着目したのが、日本老年医学会が提唱した「フレイル」(健康と要介護の中間の状態で、身体的機能と認知機能が低下した状態)だ。
「要介護状態になってしまうと、もうフレイルや健康な状態には戻れません。しかし、フレイルの段階なら、積極的なリハビリを行えば、十分に健康な状態に回復する可能性があります。早期診断が大切になるわけで、できればフレイルになる前に、画像診断で見つけられるようにすることが、私の目標です」
軽度認知障害(MCI)から認知症へ移行した人のMRI画像。8年間かけて徐々に認知症に移行している。脳全体や記憶をつかさどる海馬の萎縮も進行している
認知症の早期診断のためには、脳機能そのものの解明が重要になる。そこで、児玉教授は脳機能の基礎研究にも力を入れている。
具体的には、映像を見たり、手の運動をしたり、音を聞いたりなど、五感を刺激したときに、脳のどの部分が活性化するか、MRI(核磁気共鳴画像法)やNIRS(近赤外分光法)を用いて追究中だ。研究を積み重ねることによって、認知症やフレイルの状態になる人は、脳のどの機能が低下するのか、メカニズムが明らかになることが期待される。この研究の過程で、興味深い発見もあったという。
「ガラスを引っ掻く音や、パソコンのタイピング音などは、我々の世代にとっては耳ざわりで不快なものでしかないでしょう。ところが、若い学生たちにはリラックス効果があるらしく、心地よさを感じた際に反応する脳の領域が光り、血流が上昇したのです。触覚でも、スライムを握った場合に、私は気持ち悪いだけですが、若者には心地いい感触であることが、画像診断から明らかになっています。つまり、世代によって、心地いいと感じることには違いがあり、脳の活性のありようも異なることになります。そうなれば予防や治療の方法も変わらざるをえません。これまで脳にいい刺激であると常識化されてきた方法が、次の世代では通用しない可能性があるのです。もっといえば、世代の違いではなく、個々の違いの可能性もあります。一人ひとりの育ってきた環境をしっかりヒヤリングし、オーダーメイドの予防方法を提案すべき時代になっていく気がしています」
医療福祉系総合大学の強みを生かし、児玉教授は他学科との共同研究にも積極的だ。
「健康スポーツ学科の教員とは、トレーニングの前後にMRIで選手の筋力量を測定することによって、どれくらいのトレーニング効果があったかを検証する研究を進めています。理学療法学科の教員とは、痛みを感じやすい人と、それ以外の人で、脳機能に違いがあるのかを探究しています。他分野の専門家と関わることによって、研究の新たな視点、発想が得られることも少なくありません」
さらに、児玉教授は国際的な活動にも意欲を示している。ベトナムでは、医師が胸部X線画像から結核を発見しやすくする画像処理方法の研究を実施。この研究は2020年度、結核予防会結核研究奨励賞を受賞するなど、高く評価されている。
脳の血中の酸化ヘモグロビン濃度を測定できる「NIRS(近赤外分光法)」。この濃度が高いと、脳が酸素を多く使っており、活発に動いていることの証明になる
研究棟に設置されている最先端の「3テスラMRI」。大学病院などでは診療優先のため使える時間は限られているが、同研究棟の場合は教育研究専用なので常時利用できる
音楽やASMRを聞いた人の脳のMRI画像。赤く光っている部分が活性化されている
新潟医療福祉大学は、全国でも数少ない看護・医療・リハビリ・栄養・スポーツ・福祉・医療IT を学ぶ6学部14学科を有する医療系総合大学です。そのメリットを最大限に活かし、学部・学科の枠を越えて学ぶ「連携教育」を導入。将来、「チーム医療」「チームケア」の一員として活躍できる人材を育成します。
本学では、「優れたQOLサポーターを育成する大学」を基本理念にしています。その実現のために、「科学的知識と技術を活用する力」「チームワークとリーダーシップ」「対象者を支援する力」「問題を解決する力」「自己実現意欲」の5つの資質を高める教育を展開しています。
■ リハビリテーション学部:理学療法学科/作業療法学科/言語聴覚学科/義肢装具自立支援学科/鍼灸健康学科※ ■ 医療技術学部:臨床技術学科/視機能科学科/救急救命学科/診療放射線学科 ■ 健康科学部:健康栄養学科/健康スポーツ学科 ■ 看護学部:看護学科 ■ 社会福祉学部:社会福祉学科 ■ 医療経営管理学部:医療情報管理学科
※2023年4月学科設置認可申請中
国立がんセンター、東京大学医学部附属病院、横浜市立大学附属病院、北里大学病院、昭和大学病院、日本大学医学部附属板橋病院、順天堂医院、新潟大学医歯学総合病院、新潟県立中央病院、あおやまメディカル、日本赤十字社長岡赤十字病院、新潟市民病院、信楽園病院、新潟県厚生農業協同組合連合会、メディカルセンター悠遊健康村病院、東北大学病院、つくばセントラル病院、信州大学医学部附属病院、長野厚生連北信総合病院、金沢大学附属病院、日本大学医学部附属板橋病院 日清医療食品、サトウ食品工業、ブルボン、ヘルシーフード、クスリのアオキ、ウエルシア薬局、日本義手足製造、富山県義肢製作所、セントラルスポーツ、井上眼科病院、その他学校教員、各市・町職員、各県警察本部、各消防局・本部、陸・海・空自衛隊 ほか
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